『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』の感想(ネタバレなし)

《推定睡眠時間:10分》

ツイッターですごい物議を醸していたように見えたのはメディア特性に由来する蜃気楼とかやまびこみたいな現象だったんだろうと思っていて、見たら普通だし普通に面白かったっていうかどこで物議を醸すのかわからない。
かつて犯した過ちの罪悪感からルーク・スカイウォーカーが隠遁生活(のわりには結構充実してて楽しそう)を送る絶宙の孤星の固有種として登場、今回は出番らしい出番のないチューバッカと戯れるペンギン型マスコット生物ポーグを揶揄する声もあったが…いやそもそも揶揄するだけ出てこないじゃんあいつ。
もっとジャージャーみたいに出ずっぱりでそれで文句言われてるのかとおもった。

頭痛がひどい。喉の詰まりも感じる。時には動悸に変わる。自律神経系の病の診断下でのスターウォーズ2017はいわゆるピンポンショットの多用が特に大きな身体的負担になっておりぶっちゃけ映画どころではなかった、からというのもありますが152分長尺ずっと飽きなかったからおもしろかったフォルダに分類。
寝た10分というのは本当は寝ておらず、体調悪化により目を瞑って休んでいたのが10分ということ。吹き替え版で見たから見ずともなんとか筋は追えた。途中でゲロ吐きそうになったがおもしろいえいが。

思い返せばしかし152分というのが意外に感じるというかどうもしっくりこない。たぶんスケール感の乏しさがその主要因で、敵味方ともども艦内行ったり来たりしてるだけの場面が実際に計測したら違うのでしょうが大部分を占めていたような印象。
これは前作も同じであって。世界が閉じているようなというか。これも前も言っていたなと自分で呆れるがEP1は宇宙ひろーいって感じで面白かったのになと。

今のハリウッド映画でしかもディズニー映画だから結局あまたのリブートものとか続編もの同じ話で、『ブレードランナー2049』なんかとは基本構造まったく同じだよな。
孤星で修行とかラクダレースとか氷河決戦とか出てきましたけどこういう旧作で見たような画を新しい俳優で反復する、で、そのことに親世代の悔恨と子世代の反発の世代交代テーマを重ね合わせると。
ルークの悔恨とデッカードの悔恨に質的な違いなんてないよね。布置が違うだけで。ハリウッドが夢工場と呼ばれる所以で、徹底的にマニュアル化されているからこういう映画はオートメーションでいくらでもできる。

結局みんな王道が好きなんだから。おんなじ話が。そういう、同じ話を繰り返してやるっていうことがノスタルジーを求める層も映画を介したコミュニケーションを求める層も含めた広範な客層へのアピールに繋がるし、演者をPCに準拠した多国籍多人種布陣で固めるっていうのは結局、トランプみたいな人が好きな強いアメリカ的な、国境のないひとつの世界のイメージへのファンタジーで塗りたくった同化政策みたいなもんじゃん。
他性がないから多声もない、多様性に配慮しているようで同じ話を多様性キャストでいくらでも再演できるということが示すのは単に、単独の存在として誰一人その世界の中では尊重されてはいないということでしかない。要するに体育会系の価値観だろう。

ぼくはこのような映画をシミュラークル映画と呼ぶ。誰も呼ばなくても呼ぶ。呼んだところで得もないが呼ぶ。いいんじゃないですかシミュラークル映画。
ちょうど、ディックの『シミュラクラ』もハヤカワから復刊されたばかりだ大森望訳で。『銀河の壺直し』も買わないといけないな。『ヴァリス』とかにも壺出てくるがディックのその壺推し、なんなんだよ。

まあうまいことできているねという話でそのような体育会系構造、ハリウッド神話構造に対する自己批判的再演という土台がまずあって、その上で結局は正義に勝てないが、しかし体育会系の世界観に馴染めない人々の共感を呼ぶ悪役としてカイロ・レンを置く。
今回はカイロ・レンが大活躍だった。だらしない上半身ヌードまであった。全部取りにきているということ。その世界に馴染める人も馴染めない人も全部取り込んだ三層四層の作りになっているということ。腐女子も二次創作もコスプレも大歓迎。素晴らしいマーケティングというほかない。

おもしろポイントはぶん投げられるBB-8。壁にも投げられるし階段からも投げられるし大満足。投げたい形してる。
孤星に引きこもってるルークもよかったなぁ。エキセントリックな振る舞いがちょっと笑えるんですよね。マーク・ハミルこんな茶目っ気ある人だったんだみたいな。
俳優でいったら女優陣はわりとみんなハマってる感じでこういう、カッチリと鋳型のある映画は女優の人に負うところがおおきいねぇと改めて。押井守とか好例ですが。

追悼の意もあり(神秘的な宇宙遊泳はそのために用意されたのではないか)キャリー・フィッシャーが、というのもあるが今回はローラ・ダーン、ローラ・ダーンが貫禄あってすげぇ良いんですけどびっくりしたな蹴りのキレ。そういうこともできる万能ローラ・ダーン。前線に出てほしい。
あとベニシオ・デル・トロはサービス枠っていうか出てくるだけで面白いので、ていう。

色々書いたけどぼくはべつに不満とかないですよっていうか不満を持つには知識がいるから。知識ないからスターウォーズの。一応全部見たけどもうサーガ全体でどんなストーリーになってんのかわかんないし、じゃあ文句なんて生じようもない。
とくにお一人様鑑賞の場合は尚更だ。悪口は(たとえ仮想的であれ)会話の中でのみ生起する。人権を知らなければ奴隷が蜂起するのは難しい。

いや、そうだ、ただ、例のピンポンショットですが、ぐるっとワイプとかもあり全体的に旧作踏襲の古典的画作りになっていたわけですが、色彩の完璧なコントロールっぷりは現代基準なので切り返し時の背景色の明確な対比が目に刺激。輝度もそれなりにあるシネコン環境だったので。これは、つらい。

【ママー!これ買ってー!】


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フィリップ・マーロウの世界を学園に置き換えた翻案ものが『最後のジェダイ』監督ライアン・ジョンソンの長編デビューだったというのはいかにもありがちなハリウッド的クリエイター出世話(でも結構好き)

↓その他のヤツ

スター・ウォーズ/フォースの覚醒 (字幕版)

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