→『ジャン=クロード・ヴァン・ジョンソン』(字幕版)[Amazon プライムビデオ]
《推定ながら見時間:30分×6エピソード中20分》
パイロット版(試写エピソード)がアマゾンビデオで配信されたのが2016年8月19日。その後なんの音沙汰も無かったので企画倒れに終わったかのとおもってました。
天下のスーパーアクションスター、ジャン=クロード・ヴァン・ダム(JCVD)の正体はスーパースパイのジャン=クロード・ヴァン・ジョンソン。歳も歳なので映画の世界からも諜報の世界からも一線を退いたものの…なにかが足りない。
そこで現場復帰願い。すぐさま受理。スパイとしていかにも悪そうな秘密工場に踏み込むとヴァン・ダムにそっくりな作業員(ヴァン・ダム)がいた。
ヴァン・ダム:
うわぁ! だ、誰だぁ!
ヴァン・ダム:
落ち着け、俺は未来から来たもう一人の君だ。
ヴァン・ダム:
た、『タイムコップ』みたいな!?
ヴァン・ダム:
そうだ俺は『タイムコップ』だ。『ルーパー』じゃない。
ヴァン・ダム:
そうか『タイムコップ』か! よかったぁ! 『ルーパー』なんてつまんねぇもんな!
ヴァン・ダム:
まぁ『ルーパー』の方が完成度が高いのは確かだけどな…。
パイロット版を見て企画倒れを確信した瞬間だったが継続は力なり、一年余の時を経て晴れてシリーズ化されたのでやっぱ大して面白くないが2話3話とだらだら見続けていたらまたヴァン・ダムが『タイムコップ』と『ルーパー』の話をしている。
スイッチが入ってしまったのでそこからはもう何を見ても笑えてしょうがなくなってしまった。この自虐の天丼はずるい。ヴァン・ダムの天丼はずるい。もはや製作総指揮:ジャン=クロード・ヴァン・ダムのクレジットにさえも大爆笑という始末なので今こうやって書きながら思い出し笑いしてます。
アマプラのドラマは全般的にスロースターターの印象がありますがこれも例に漏れずで、最初2話ぐらいはクソ寒い楽屋落ちのうえにヴァン・ダムがヴァン・ダムを演じるヴァン・ダム製作総指揮(これも!)のヴァン・ダム映画『その男、ヴァン・ダム(原題『JCVD』)』の二番煎じでしかないので本当に面白くないがそこで見限らないで3話ぐらいまではせめて。
そこまで見てもつまんなかった人は単純に合わないんだと思いますが、不幸にも合ってしまった人はヴァン・ダムのゲシュタルト崩壊に笑いが止まらなくなってしまうから。
だって毎回エンドロールで「製作総指揮:ジャン=クロード・ヴァン・ダム」って出るんだよ…あぁだめだそれの何が面白いのか全然伝えられる気しないわ。
シリーズといっても1話30分、全6話のミニシリーズ。『33分探偵』とかでも10話ぐらいはあるのに。このトータルタイムで深さとか重さとか驚きとか洗練とか感動とか期待できるわけもなく要するに海ドラすごい文脈で語られる海ドラの美点は全部ないので、このタイトルを見てそんなものを期待する人がいるとは思えないがもしいたら重ねて言っておく。
深さも重さも驚きも洗練も感動も、ない。あるのはヴァン・ダムとヴァン・ダムとヴァン・ダムとヴァン・ダムとヴァン・ダムと、ヴァン・ダムだけだ。
『ダブル・インパクト』、『マキシマム・リスク』、『レプリカント』などなどたぶん某三角絞めのカミヤマさんに訊けばもっとあると思われるヴァン・ダムの一人二役は誰が喜ぶのかわからないがヴァン・ダム本人は喜ぶヴァン・ダム映画名物として定着しているが、今回は特にすごかった。
アクター兼スパイの設定ゆえヴァン・ダムは毎話撮影現場もしくは潜入先等で別人格を演じているが、それに加えてヴァン・ダムに似ているヴァン・ダム、時空を超越したヴァン・ダム、ヴァン・ダムの脳内のヴァン・ダムまで登場してしまう。
風向きが変わるのは3話と書きましたが3話で何が起こるかというと、これがすごいのですがなんとヴァン・ダムを演じるヴァン・ダムに扮したヴァン・ダムをヴァン・ダムを演じるヴァン・ダムが装うのだ!
いきおい感嘆符を付けてはみたが文字に起こすと感嘆符も含めてまったく意味がわからない。映像で見れば即座に了解。実に衝撃的な展開でしたね。
君の名は? ヴァン・ダム! 君の名も? ヴァン・ダム! 国民的エモアニメに一石を投じた。
一応映画業界ジョークみたいのは適度にあったりはする。映画業界を隠れ蓑にしたスパイ組織の陰謀がみたいなストーリーもあったりはする。ゆるいけれども、そのゆるさが独特のオフビート虚実皮膜を生んで奇妙に味。
AmazonオリジナルドラマだからAmazonギャグも入ってくるがこれがなかなかのパンチ力で、スマートスピーカーがクソ使えねぇという自虐ネタも破壊力があったが最終話でヴァン・ダムが向かった先というのが(そしてその時のヴァン・ダムの台詞というのが…)、ブラックジョークに手加減がなさ過ぎて笑うどころか畏怖の念。
…というヴァン・ダム以外の諸々もあったりはするドラマではありましたがそんなものでは製作総指揮も兼ねたヴァン・ダムの自己愛は消せないので結局ヴァン・ダムによるヴァン・ダムのヴァン・ダムのためのヴァン・ダム回顧的プロモドラマになる。
設定こそ違えど内容的にはほぼほぼ『その男、ヴァン・ダム』の続編、ヴァン・ダム的にもそのつもりだったんだろうな、『その男、ヴァン・ダム』でさらけ出した孤独と哀愁をまたナルシスティックにさらけ出したりする。
ロシアの麻薬王が敵として出てくるのは近頃露骨にロシアに擦り寄ってきているスティーヴン・セガールを暗に批判しているのだろうか。
『その男、ヴァン・ダム』ではセガールがポニーテールを切ったことに動揺を隠せないヴァン・ダムであったが、そういえばセガールにもCIA諜報員説があるわけだからそれを踏まえた企画だったのかもしれない。
どうしてここまでヴァン・ダムはヴァン・ダムが好きなのか。笑いながら呆れて見ていたが、あぁ、そうなんだよまさにそれがこのドラマのテーマだったんだよ…。
どうしてヴァン・ダムはここまでヴァン・ダムが好きなのか。どうしてヴァン・ダムはヴァン・ダムとばかり闘いたがるのか。どうしてヴァン・ダムはヴァン・ダムを憎まずにいられないのか。どうしてヴァン・ダムはヴァン・ダムを弔う必要があるのか。どうしてヴァン・ダムはヴァン・ダムを演じるのか。
その答えがバカバカしくも極めてバカバカしくもいや本当にクソみたいにバカバカしくも判明するラストにちょっとだけ水分持ってかれそうになりましたが、それがヴァン・ダムを演じるヴァン・ダムの心情なのかヴァン・ダムが演じるヴァン・ダムの心情なのかはわからない、その虚実皮膜がたいへんおもしろうございました。シーズン2ください。
2018/1/27 追記:打ち切りになりました。
【ママー!これ買ってー!】
虚実皮膜度で言えば宿敵セガールの『セガール警察24時』も相当なもので、セガールの裏の顔は警察官! とかいうかなり誇張した煽り(実際はボランティア的な位置づけだそうです)の密着ドキュメンタリーは、セガールはただ現場に同行してるだけなのにさもセガールのおかげで事件が解決したかのような編集がなされており、どこまでも虚実と倫理のあわい。
好評を受けてのシーズン2撮影中にいわゆる「沈黙の養鶏場」事件が発生してしまった点も込みでセガールの最高傑作と言い切りたい。
↓その他のヤツ