《推定ながら見時間:89分中70分》
よくわからない。なんだったんだろう。
黒に沈んだ不気味な映像にポエトリーリーディングのような主人公の女の人の声が被さるオープニング。それにしても沈んでいる。安いモニターでの視聴のため黒しか見えない。
延々、といっても数分程度ですが、黒だけ画面に女のポエム独白。『BLUE』かよ、と思う。そんな実験映画のつもりで再生したわけではないけれど。
果たして実験映画のような映画であった。なにかしら、なにかしら不気味な雰囲気はある。映らないブラウン管テレビ。語らない認知症の老婆。独り言を喋り続けるヘルパーの女。しかしなにかしらはなにかしらで、具体的ななにかはなにもない。
このヘルパーの人が一応の主人公ということになる。なにがなんだかよくわからないのは客観と主観がかなり主観寄りでごちゃ混ざった映画だからで、不気味邸に派遣されたヘルパーさんが恐怖と狂気に染まっていくその過程を、主観と客観の区別の付かない子供の目から見るように漠然とした恐怖イメージで綴っていくからだった。その意味ではダークファンタジーっぽくもある。
ホラーというよりは前衛の試みが強く出たのかもしれない。悪く言えば雰囲気もので、画面にもストーリーにも具体的なものは何一つ描かれないが、アーティスティックかつ気味の悪い映像の雰囲気だけはある…そういうショートフィルムとかインディーズゲームのような香り。
良く言えば。『夜の夢見の川』という俗々チープにメランコリックなゾクゾク題を持つカール・エドワード・ワグナーの短編小説がぼくは好きで、仕掛けは取り立てて珍しいものではないし描写に格別の迫真性がある感じでもないと思うが、忘れた頃につい読み返したくなるふしぎにあやしい魅力がある。
『呪われし家に咲く一輪の花』もストーリー的には少しそれを思い出すところがあった。なんの話かと言えば、ヘルパーさんが派遣された不気味邸の主は著名なホラー作家(ながら見のため詳細不明)で、その代表作というのが家に地縛したおんなゴーストの小説らしいのだが著者曰くおんなゴーストが語りかけてきた内容を私は口述筆記しただけ。
不気味邸にはおんなゴーストが棲んでいるんだろうか。今も棲んでいるのだろうか。壊れたテレビと朦朧とした老婆と過ごす不気味邸の孤独はヘルパーさんを次第に蝕んでおんなゴーストの幻影かあるいは実在か、またあるいは…ともかくなにかしら、呼び寄せてしまった、らしい。
恐怖描写はありきたりでホラー的なこわさは薄いかったけれども、なにかしらのしこりは残る。こういうのは嫌いじゃないっていうか好きな方、つまらないけど。ジャンルとしては奇妙な味だろう。
低く唸り続ける不気味音響設計がよかったのでヘッドフォン推奨。
【ママー!これ買ってー!】
見ている側も作っている側もきっとなにがなんだかよくわかっていない。見ている側も作っている側もきっと傷が残った。よくわからないがなんか気持ち悪い謎作。
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