《推定ながら見時間:10分》
主人公はジャック・ブラック演じるドサ回りのポルカ歌手で、音楽活動費に困ってついついファン相手の悪意なき投資詐欺に手を出してしまったところ大騒ぎに的な話だったがポルカっていうのをまず知らない。スラヴ系の音楽ですとウィキペディアに書いてある。東欧の人たちとか一緒に戦後アメリカに入ってきた音楽ジャンルでファン層はおもに老人、云々。
このポルカキングことヤン・レヴァンという人もポーランド移民で、アメリカに移ってしばらくは最低賃金の下働きを余儀なくされていたが、やがてポルカに覚醒してアメリカン・ドリーマーの一員となったのだった。ちなみに実在の人だそうです。
民族音楽としての原ポルカのバンド・演奏形態は知らないがアメリカン・ポルカというのは映画を見る限りだとこう、人生みたいな。いや、暗喩的な意味ではなくて電気グルーヴ前身の人生(ZIN-SAY!)みたいな…なんか十何人くらいの大編成でドンキで売ってそうな着ぐるみ着て踊ってるだけの人とかも居る。人生では瀧が被り物係だったはずだ。
ドサ回りの楽団だから場を盛り上げるためにそういう人も入れてるんだろうな。ボーカルは煽りまくる踊りまくるハイテンションで陽気の塊。そういえば『ホーム・アローン』に出てきたポルカ楽団のリーダーも話し出すと止まらないタイプの人だった。アメリカン・ポルカの人にはそういうパブリックイメージがあるのか。
ヤン・レヴァンのポルカショーは合間合間に自分の経営する民芸品店とか出してるCD(テープ?)とかの宣伝が入る。即興的というか、ドサ回りなので地域ごとに歌にご当地アレンジを施す。高齢者ばかりの客は大盛り上がりでヤンの赴くところはどこも老人レイブ会場と化す。
歌謡とレイブとお笑いと実演販売が混然一体となった営業形態、なにそれめっちゃ面白そうじゃないですか…ていうか面白かったしヤン・レヴァンはサービス精神旺盛なあっぱれショウマンだったので絶対に怪しい投資詐欺(年利12ぱーせんと)が易々まかり通ったという話なのだった。
ところでヤン・レヴァンは架空投資をそれっぽく取り繕うために出資者老人ファンミーティング的なヨーロッパツアー(目玉はローマ教皇の謁見)なんかを度々企画、自らバスガイドも務めていたが、これはあれだなポンチャックの帝王イ・パクサじゃないですかまるで…。
イ・パクサもドサ回りの人だし元うたうバスガイドだしなによりそのハイテンション歌唱ダンス&陽気伝播力がジャック・ブラック演じるヤン・レヴァンとガチャ被りじゃないですか…しかもイ・パクサだってカンパニー松尾とバクシーシ山下に連れられてワールドツアー行ってるからね!
↑これがイ・パクサだ!
↑イ・パクサだ!!!
イ・パクサもまた極貧から成りあがった立志伝中の人だが一方ヤン・レヴァンも撮影係雇ってツアー模様撮らせたりしていた(そしてたぶんパッケージ化して売っていた)わけで、馴染みの薄いアメリカン・ポルカは要するにポンチャックであると解すれば、グラミーにもちょい嚙みしてこうやって映画にもなったぐらいだから本国ではそれなりに(悪)名の知られたこのポルカスターをイ・パクサであると思えば、アメリカローカル話もなんだか急に距離が近くなる。
確かに、イ・パクサが投資求めてきたら俺も5000円ぐらい無条件で預けると思うよ! 5000円ぐらい!
かつてのイ・パクサが(まだ言う)あらゆる楽器楽曲を即座に弾きこなす弱視の天才キム・スーイルを相棒としていたようにヤン・レヴァンにも楽器の天才の相棒がいるが、劇中でその役を演じているのはジェイソン・シュワルツマンだった。
なんかやたらクールを気取るのですよジェイソン・シュワルツマンが。面白いなあ。俺はバイトで糊口をしのぐ一介の貧乏ポルカ歌手で終わらない、ポルカ帝国を築くんだと怪気炎を上げるジャック・ブラックに現実を見ろよとすげないが、投資詐欺によって金がジャガジャガ入ってくると俺も本当はバイト生活が嫌だったんだよぉと泣きついたりする。
だいたい普通にステージで演奏してるだけでジャック・ブラックよりおかしいからズルい。クマの着ぐるみの人が踊ったりヤン・レヴァンの妻がジュエリーの宣伝してる横でひとりだけ自分の世界に入り込むジェイソン・シュワルツマンの場違いないんちきジャズメン(風)っぷり、笑ってしまうよそんなものは。
ジャック・ブラック&ジェイソン・シュワルツマンの組み合わせから押しの強いげんなり系アメリカ笑いを警戒せざるを得ないがこれは杞憂で想像したより全然胃にやさしいし脳にもやさしい笑いだったな。
悪い人とか出てこないからね。ムカつく人とか面倒くさい人とか無能な人しか出てこないけど悪い人はいないから。ヤン・レヴァンの姑役のジャッキー・ウィーヴァーとかもーう見事なクソババァなんですけどクソババァなだけで悪人じゃねぇっていうのがすげぇ良いんです。その塩梅が笑えるしちょっと沁みるしね。
なんかイイ話でしたよ。投資詐欺を咎められたヤン・レヴァンが言う。「嘘なんかついてない! 信じてるんだ!」。ヤン・レヴァンは自分がビッグになれると信じているし、ビッグになったら家族もバンドメンバーも出資(被害)者もみんな幸せになれると信じて込んでるんだよね。そのビッグになる過程の計画がすっからかんだったってだけの話で。
いや、投資だからそれがダメなんだけど、でもその夢を共有してる間は実際みんなハッピーだったんですよ、映画の中では。投資は詐欺だったけど株主優待的にペンシルバニアの田舎とかの余命いくばくもないのに金だけはもっと欲しい強欲出資ファンたちをヨーロッパツアーとか連れてってあげたりしてさ、その間ずっと本人の面白ガイドが付くわけ。こんな良心的な詐欺師いないだろう。
家族が病気で困ってると打ち明けたスタッフには気前よく治療費を出す。スターになりたくて結局なれなかった妻の夢を叶えようとする。テレビでトーク番組を見たら、グラミー中継を見たら、そこにはヤン・レヴァンが映ってる。
イイ話だよね。映画の中のヤン・レヴァンに関わった人はみんな楽しかったと思うよ。全部詐欺の賜物なんだけど。
アメリカン・ドリームなんて詐欺の別名でしかねぇや、との皮肉も微量検知されるが、先のことを考えたり計算したりするのが苦手なだけで根は無邪気な人々の悲喜こもごも夢物語は後味さわやか。
ジャック・ブラックの吟じるヘボヘボな“ポルカ・ラップ”がむしろジーンと来て笑えないくらいには感情がノったから面白い映画だったとおもいます。
【ママー!これ買ってー!】
イ・パクサと明和電機のコラボなのでアリラン明電というふざけた名義で名盤。
キム・スーイルの年季と情感たっぷりのイイ歌声も聴ける(日本語)