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オリジナルの『君よ憤怒の河を渉れ』がそもそも高倉健ムービーの中でもトップクラスのトンデモ系に属する映画だとしてもそのリメイクで『バイオハザード』要素が入ってくるとは思わねぇだろ倉田保昭がタイラントになるってなに!? タイラントかもしくは『ユニバーサル・ソルジャー』のドルフ・ラングレンになるって!
それはいくらなんでもやりすぎだろうとおもう。映画のラストステージは香港アクション映画での採用率が異様に高いセットの主張が激しすぎる絶対に悪い秘密研究所で、ユニソル薬を注入されて殴られても撃たれても死ななくなった(そして素手で壁とか砕く)倉田保昭とチャン・ハンユーが暴れているところにそれまで舞台裏でほぞを噛んでいた“ドニー・イェンと闘った男”池内博之がついに自ら超人化して乱入、あと福山雅治とか『君憤』でいうところの中野良子ポジションであるチー・ウェイとか前触れもなく急に出てきたすごく強いボディガードとかとにかく画面に出てくるみんなが銃を手に刀を手に刀が無ければ棒を手に取りそれさえ無ければ素手でバトル参加、なにが起きているのか基本的にはよくわからないがなにかすごいことにはなっている(背景のセットがどんどん爆発していく)大乱戦が繰り広げられるわけであるが、それはいくらなんでもやりすぎだろうとおもうよ!
別に俺はオリジナル原理主義者じゃないけどこれのどこが『君よ憤怒の河を渉れ』だよ! 全然違うにも程があるよジャンルがもう違うよ! 若い頃に『君よ憤怒の河を渉れ』を見たから高倉健主演で『単騎、千里を走る』を撮ったチャン・イーモウがカチコミに来るぞ! 『昭和残侠伝』みたいな感じで来るよ! 背中で唐獅子牡丹が泣いてるよ!
こんなもんリメイクでもなんでも…いや、待てよ。みなさん気付きましたか。『君よ憤怒の河を渉れ』には健さんとしては珍しい薬中廃人芝居が出てくるが、そういえばその舞台は黒幕にハメられて強制入院させられた精神病院だったのだ…ということはそれを換骨奪胎したのが絶対に悪い秘密研究所での超人実験だったのだってバカ! バカかよ! バカなんだろうな! 本当にアクション馬鹿なんだろうな、ジョン・ウーこの野郎!
もう、そんなの最高と言うしかないだろ。秘密研究所ステージってあれだろジョン・ウー的には『ハード・ボイルド』の病院地下にあった隠しルームだろ。その秘密研究所の電極ビリビリ椅子は『フェイス・オフ』の電気拷問椅子だろ。
階段滑り撃ちはみんな大好き『男たちの挽歌2』。北海道に見えないからたぶん北海道じゃない森に囲まれた北海道の別荘を殺し屋が襲撃する場面はたぶん『狼』の隠れ家襲撃シーンのイメージ。刑事の福山雅治が弁護士チャン・ハンユーの犯行とされた殺人を推理する場面も『狼』か。
刑事と犯人の手錠を繋いだままのメキシカン・スタンドオフも『狼』だろうから『狼』ベースのジョン・ウー祭りが『マンハント』と言って差し支えないと思うが、『君よ憤怒の河を渡れ』の意図せざるシンボルといえば北海道の熊。
もしや、今回のリメイク版では惜しくもカットされた熊に代わっての狼か! やるねぇ。やるねぇじゃねぇよ何もやってねぇよ。もう脳溶けたわ。無国籍無時代無秩序の三無揃った多言語ユニバーサル居酒屋で銃撃戦する最初っから脳溶けてたわ。
撮る方も脳溶けてきてるからカーチェイスで鳩小屋突っ込んで白鳩を大量解放していた。そんな強引な飛ばし方ありかよ! なんか銃撃戦は戦争の象徴で白鳩は無垢の象徴みたいなこと言ってなかったですかね昔のインタビューで! 最高。
残念なところと言えばこれはかなり真剣に残念だったのが、せっかく大阪ロケを敢行している(健さんも出演の『ブラックレイン』が脳裏を過ぎる)のに市街地でのアクションが極端に少ない。『君よ憤怒の河を渉れ』の見せ場といえば中野良子が新宿に馬の大群を放つトンデモ撮影だったのに…。
辛うじて気を吐いたと思われるのが屋形船の破壊と福山・ハンユーのボートチェイスだなんて、ちょっとそれは寂しい。ジョン・ウーの様式美追求型アクションの舞台となるのは今も昔も基本的には屋内だとは思うが…もう少し、走るとか。ものすごい数の警官隊に囲まれるとか。
大阪の地理には明るくないが、なんかもっと色々と逃走劇を盛り上げる場所とかシチュエーションとかあると思うんですが大阪…撮影許可、取れなかったんだろうなきっと。
結果、別荘とか林とか山道とか人の来ない場所でばかりアクションが繰り広げられるからなんかインディーズ映画っぽくなってしまったな。編集もすげぇ素人っぽいしな。そこで入るのかよっていう謎スロー多用しまくり。それはもうわかったよっていう顔アップしまくり。その部分繋ぎのショット入れ忘れてない!? みたいな大胆省略。
台詞のアフレコはありえないぐらいめちゃくちゃバレバレである。リップシンクロ率がマイナスに入った。
いやそれはいくらなんでもミスとは思えないので狙いなんだろう。ジョン・ウー祭りだから。自分の過去作も含めて昔の香港映画のパロディにしてんだよ。
製薬会社のパーティでのどう形容していいかわからない謎ダンスシーンとか。ああいうの『シティハンター』とか『Mr.Boo インベーダー作戦』とかであったじゃん、なんか若者の流行取り入れました的な感じなんだけど作り手がそこに全く興味を持ってないからよくわかんない変な風俗描写になったやつ。
あれが出てくる。なんていうか非常に味がある。ノリノリで踊り狂う池内博之も見れる名迷シーンだ。
「映画みたいな場所だな」の台詞から始まって「映画みたいな死に様でしょ」の台詞で終わる。ラスボス國村隼を倒した後のエピローグ、闘いの中でチャン・ハンユーと交感した福山雅治が別れ際に放つ台詞は、ぼくの語学力では甚だ怪しいが「BETTER TOMORROW」がどうたらというものだったはずである。
こんな程度のくすぐりで緩む涙腺はいかにも安いが泣くわ。劇中で一番カッコイイ動けるぶさいくデブの女暗殺者がジョン・ウーの娘とかもうインディーズ映画の河も渉りきってホームビデオで泣くわ。
これは年賀状です。ジョン・ウーからアクション馬鹿のみんなに贈られた娘の映像付きムービング年賀状。旧正月ですからね。たくさんドンパチやって悪い奴はやっつけて白鳩も大放出で大変おめでたい。あけましておめでとうございます。
で、その年賀状にはこのようなメッセージが添えられているわけです。たとえ言葉が違っても人種が違っても性別が違っても、お互いをリスペクトして共に闘えばどんな人でもきっとわかりあえる!
そう、君も僕もみんなユニバーサル・ソルジャーなんだ!
監督変わっちゃったじゃん、のセルフツッコミで終わろうとしたらジャン=クロード・ヴァン・ダムが製作総指揮・主演を務めたアマプラ打ち切りドラマ『ジャン=クロード・ヴァン・ジョンソン』の中で、ジョン・ウーのハリウッド進出作である『ハード・ターゲット』を自身のフィルモグラフィー中の傑作として挙げていたことを思い出したから、それを踏まえれば『マンハント』の終盤が『ユニバーサル・ソルジャー』化するというのも故なきことではなかったな。
ねぇよ。
【ママー!これ買ってー!】
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ファンサービス的セルフパロディが満載だったりとか可能な限りの都市部アクションにチャレンジしたりとか、わりと全体的な印象は実パト劇場版に近かったように思う。
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