あくまで俺が見て面白かったやつなのであんま人の参考にならんかもですけど的なエクスキューズは先にしておくヘタレ根性。
まぁ、でも、どれもわりと面白いし怖いと思いますよたぶん。恐怖よりだいぶ面白に寄ったセレクションになってますが。あと珍品多め。
『トールマン』(2012)
トールマンとは劇中に出てくる謎の子ども攫いの通称で、子ども誘拐の多発する寂れた田舎町で巻き起こる恐怖が云々というのがこの映画。ホラーサブジャンル的にはブギーマン(子取り鬼)ものというやつ。あまり直接的なショック描写やスプラッター描写は見られず、トールマンの正体と子ども誘拐の真相に力点が置かれた映画だからミステリー的な色が濃い。
監督のパスカル・ロジェは『マーターズ』で有名な人で、これは公開当時には映画秘宝界隈で「フレンチ・スプラッター最終兵器!」的な扱いを受けていたように記憶しているが、どっこい見に行ったら凄絶なスプラッター描写やバイオレンス描写は確かにあるがいわゆるスプラッター映画然とした恐怖を描いたホラー映画じゃなかったから驚いた。
で、半ば騙されたような気がしつつも残りの半分で「フレンチ・スプラッター最終兵器!」的な煽りに大いに納得もしたのだった。目を覆わんばかりの肉体の痛みと精神の痛みを通してそのまた先の、存在の痛みとでもいうような地平を見せつけるスプラッターを越えたスプラッター映画だったのだ。
お話としては『マーターズ』の発展系のような『トールマン』が演出的にはサスペンスとかミステリーだとしてもホラーとしか言い様がない恐ろしさと痛みを湛えている(と思うが)のは、『マーターズ』がそうだったように多くの人が特に理由も無くなんとなく正しいと信じている日常的な倫理観を根底から、あくまで理詰めで冷静にひっくり返してしまうからで、その意味ではこれ以上にホラー的なブギーマン譚というのもないんじゃないだろうか。
ジャンル映画の天才子役ジョデル・フェルランドの存在感も素晴らしい、子どもを持つ人にとっての超ホラー映画って感じで大好きですね俺は。
『パーフェクト・トラップ』(2012)
悪趣味バカスプラッター(ほめてる)『ザ・フィースト』の脚本家コンビで、しなくてもいいのに最近復活してしまった『ソウ』シリーズの後期を支えたマーカス・ダンスタン&パトリック・メルトン渾身の一作。
人の家に侵入してはあちこち勝手にヒトコロスイッチを仕掛けてしまう『風来のシレン』で言うところのカラクロイド的な迷惑殺人鬼を描いた『ワナオトコ』の続編は、前作を遙かに凌ぐホラーアイデアとサービスの嵐でもうお腹いっぱい。
前作の舞台は人の家だったが今回の舞台はワナオトコ邸。出張先での簡易ブービートラップがオモチャに見える大規模ヒトコロスイッチの数々にハントしたコレクションの数々(※コレクターという殺人鬼名)、殺人猟犬とゾンビ化した人々が徘徊するダンジョンと化した邸内はさながら『風来のシレン』で言うところの一階層ぶち抜きモンスターハウスであった。
打倒ワナオトコの誓いを胸にモンスターハウスに突入したワナオトコ被害者集団VSワナオトコ軍団の本気バトルは「今度は戦争だ」を地で行くホラー的王道続編の趣。
ついに自らもライフルを手に戦いに出るワナオトコの勇姿も見逃せない、これはパーフェクトな続編だと思いましたね俺は。『ソウ』とかいいからこっちの続編を、誰か。
『グレイブ・エンカウンターズ2』(2012)
またしても不思議のダンジョン系ホラー。こっちのPOVダンジョンも面白いぞ! 一応設定の上では霊力により時空間が乱れに乱れた迷宮廃病院、ということになってはいたがそれほどお金はなかったのでわりあいノーマルなPOV幽霊屋敷ホラーに見えてしまっていた前作から一転、続編の方は容赦なくダンジョンしているので「風来のシレン」で言えば天馬峠から一気にテーブルマウンテンに来てしまったぐらいの感じある。
どのぐらいダンジョンか。こう、今回の舞台も前作の迷宮廃病院なのだが、扉があるじゃないですか。その扉が開く時間帯によって接続先が別々に(ランダムではなく)設定されているのだ。ダンジョン!
お化けの映画だから廃病院探索してるとお化け出てくるじゃないですか。このお化けは出る場所とか時間帯および行動範囲が明確に決まっていて、廃病院に囚われてしまったためダンジョンを探索しながら自主攻略本をシコシコ作っているダンジョンマスターによれば、適切なルートを選べば一匹のモンスターとも遭遇せずに出口まで辿りつけるというのだ。ダンジョン!
もう完全に面白方向に舵を切ってしまっているなこれは。スマッシュヒットした前作『グレイブ・エンカウンターズ』を見た映画学校の学生たちが前作の監督(今作では脚本)ザ・ヴィシャス・ブラザーズのインタビューを撮ったりしながら前作のロケ地で撮影して自分たちも一発当てようとするメタな入れ子構造。
おもしろすぎるでしょ。POVとかモキュメンタリーとか完全に超越しているよ。白石晃士の『コワすぎ!』とか好きな人なら必見絶対。
『エビデンス -全滅-』(2013)
『グレイブ・エンカウンターズ2』ほど振り切れてはいないがこれも変わり種POVホラー・ミステリー。ホラー・ミステリーというかホラー+ミステリーで、ネバダで勃発した謎のバス乗客大量焼死事件の証拠として現場で見つかった観光客のプライベートビデオを元にラダ・ミッチェルら捜査官が事件の全容を解明しようとする推理パート、そのプライベートビデオの内容をPOVホラーに見立てたホラーパートから成る変則構成。
古くは『食人族』、最近(?)では『ソウ』も同じような構成ですが、ホラーパートがストレートなスラッシャーものになっているというのは珍しいパターンかもしれない。
尚のこと珍しいのはホラーパートがホラーパート単体で成立しているという点だな。なにせ殺人鬼のキャラが立っている。凶器が火炎放射器の殺人鬼だなんて。
こいつは燃料タンク背負って溶接マスクで顔面を覆った出で立ちが格好良すぎだし、なんでもかんでも焼いてしまう豪快かつ無慈悲な殺りっぷりにはPOVにはもったいないくらいの本格派スラッシャー殺人鬼の風格が漂っていた。
凶器が火炎放射器のスラッシャー殺人鬼とか『バーニング』以来じゃないかと思うが『バーニング』のバンボロさんは植木バサミがメインウェポンだったからな、これはバンボロ超えたよ。少なくともスペック的には。
その面白いスラッシャーホラーパートにオマケでラダ・ミッチェルと歯切れの良い推理パートがついてくるんだから、たいへんお得。
『ゾンビ自衛隊』(2005)
冒頭がなんというか鳥肌実系の電波ビデオなのですが冒頭だけなのでどうか判断を急いで視聴を中止したりしないでほしい。いやそれ以降も電波なのですが笑える電波なので視聴を中止しないでほしい。電波ですが…。
『遊星からの物体X』オマージュ全開のタイトルを背景に『マーズ・アタック』的CG丸出しUFOが『吸血鬼ゴケミドロ』みたいに地球に襲来。
なんか理由とかわからないが富士の樹海で『サンゲリア』的にゾンビが大量発生してしまったので、何故か樹海で演習中の自衛隊員とか死体を埋めに来たヤクザとか不倫ペンションオーナーとかセクシー女優のみひろとかがゾンビと戦う。
『ブレインデッド』風の赤ちゃんゾンビも『死霊のはらわた』オマージュな牛乳まき散らしもあるよ。あと後半すごいSF展開になって何考えてるんだってなる。作った人にそう言ったら電波考えてんだよ! とか怒られそう。真面目に不真面目電波。エネミーor英霊の下り(爆笑)とか普通の神経でできないことを易々とやってのけるからすごい。
今でこそ『アイ・アム・ア・ヒーロー』とかありますが、以前はビッグバジェットのメジャーゾンビ映画なぞ考えられなかったゾンビ不毛地帯の日本で諸々の悪条件にもめげずひたすらゾンビ映画を量産し続けた(続けている)ジャパニーズ・ゾンビ界の大功労者・友松直之が監督。
それを頭に入れてから見直すとちょっと感動すら芽生えるから侮れないZ級ジャパニーズ・ゾンビ・カルト。
『ゾンビ』(1978)
その『ゾンビ自衛隊』の冒頭で右翼青年が言及していたジョージ・A・ロメロの、言わずと知れた代表作『ゾンビ』も今ネッフリで見れるみたいなので、一応。
内容とか作品の意義とか書かなくてもみんな知ってると思いますが、なんか世界中ゾンビだらけになっちゃってもうダメだってなったSWAT隊員とテレビ局員が郊外の巨大ショッピングモールに逃げて立て籠もるやつです。
これがとても当たったので雨後の竹の子みたいにゾンビ映画大量に生まれちゃった。頭を撃たれて死ぬとか手を前に突き出してふらふら歩くとかゾンビの行動ルールもこれ(と、前作『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』)が基本になっちゃった。めちゃくちゃえらい。
『ゾンビ』ともなるともはや娯楽映画の粋を超えて教養。公式には共同出資者のダリオ・アルジェント監修版(時間が短くて音楽とか編集が雑)、カンヌ出品用にロメロが仮編集したロメロ版(時間が長くてドラマが丁寧だがゴブリンサウンドがあまり使われていない)、両者の間を取ったような北米公開版の3バージョンありますが、今ネッフリで見れるのは一番見やすい最後の北米公開版なので、まだ見てない人がいたら是非どうぞ。
『デス・マングローヴ ゾンビ沼』(2008)
『ゾンビ』の影響力は絶大なので『ゾンビ』から地理的にも時間的にも遠く離れた2008年のブラジルでもこんな腐臭漂う奇怪なゾンビ映画が出てきてしまうが、内容的には『ゾンビ』というより『サンゲリア』を筆頭とするゾンビ映画もう一つの潮流イタリアン・ゾンビの系統。
とにかく臭い。魚とか材木とかなんかいろいろ腐っている。ねばつく汚泥と瘴気の漂ってきそうなマングローヴを見ているだけでも臭いし気持ち悪いのにそこからデロデロに腐ったゾンビが出てくる。これはもうめっちゃ臭い。
画質の粗いDV撮影とロケ地ほぼ漁師の木造小屋のみのハードコアな貧乏仕様の中で繰り広げられる格差社会最底辺のいがみ合い殺し合い食い合いドラマは見ていて気が滅入ってくるが、なにかこう、得も言われぬ魅力があるんだここには…沼だから…。
『レッドステイト』(2011)
遠からず訪れる(と信じられていた)終末の日に備えて銃火器を大量備蓄していたプロテスタント系カルト、ブランチ・ダヴィディアン教団が93年に起こしたATF(爆発物とか銃器とか取り締まる機関)およびFBIとのプチ戦争的大銃撃戦(戦車まで投入された)に材を取った、オフビート監督ケヴィン・スミスにしては異色の超硬派なアクションホラー。
軽薄でつまらない学生バカたちが女に釣られて辿り着いたのは終末ウェルカムな再臨派の教会。当然セックスにありつけるわけもなく、教祖マイケル・パークスのわけのわからない命によりカルト信者たちの前でビニールぐるぐる巻きにされた挙げ句生け贄にされてしまう。
だがそこに捜査の手が。助かった! と思ったらそこからが地獄で、どうせ終末近いし自分たちは携挙されて天国行けると思ってる人たちが大量の銃火器持ってるわけだから洒落も歯止めも容赦も一切無しの戦争状態に突入するのであった。
こんなガチな作風ではないが以降のケヴィン・スミス映画の原型になった感もあったりし、変に理知的だったりするところが怖すぎる殺人カルト教祖を大怪演のマイケル・パークスはスミスの次作『Mr.タスク』ではセイウチ人間作りたい博士に。
事態の収拾に当たったFBI捜査官ジョン・グッドマンの戸惑いは、事件は解決してもそこに伏流する終末思想の不可解と蔓延は解決されない事を感じさせてたいへん恐ろしかった。
『武器人間』(2013)
セイウチと人間くっつけたい博士がいるなら金属というか兵器の廃パーツみたいの片っ端から人間にくっつけたい博士もいる。
この武器人間博士はカルト教祖にしてセイウチ人間博士のマイケル・パークスに劣らず狂っているが世界平和のために武器人間を製造しており、やってることのバカさと反比例する志の高さに感動してしまった。
その平和のためにすごい実験をするんだよ映画のクライマックスでこの武器人間博士は! そこだけとは言わないがともかくそこは見るべき分断の時代に生きる現代の人類みんな見るべき。
設定的にかなり強引な気もするがPOVの映画で、第二次世界大戦末期にドイツの占領地帯に入ったロシア軍の偵察部隊が遭遇する恐怖を描く。この部隊にはムービーカメラを手にした記録係が同行していたので、そのファウンド・フッテージという設定(無理がある)
鳴り響くサイレンとか。救いのない陰惨ムードとか。武器人間工場の生理的嫌悪催しまくり美術の素晴らしさとか。まぁ色々良いところはありますが…武器人間だよね。武器人間に尽きるよ。
なんで付けたのか知らないけど頭に回転するプロペラがくっついた「プロペラヘッド」(まんまだ!)、頭がプレス機になっているのであんまりその機会はないと思うが迂闊に顔を近づけると挟まれて死ぬ「ハンマーヘッド」、両手両足に槍みたいのくっ付けたので常時竹馬状態の「モスキート」…もう格好良すぎ。怖いけどユーモラス。大好き。
まだ生きてる公式サイトで劇中の実物とは大幅に異なる夢の塊みたいな武器人間アートワークが見れるので、そっちもぜひぜひ。
『電柱小僧の冒険』(1987)
さて武器人間と言えば。日本が誇る武器人間職人・塚本晋也の『鉄男Ⅱ』だ。『鉄男』では男性器がドリル変異(物理的に)する程度だったが、『鉄男Ⅱ』では銃とか戦車と人間が合体するからこれはもう武器人間と呼ぶべきだろう。今のところの最新作『野火』は生身の人間が兵器扱いされる映画なわけだから、ある意味ブレない。
『鉄男』も『鉄男Ⅱ』も現時点ではネッフリで見られるが、嬉しい驚きだったのはその前段に当たる電柱系SFホラーコメディ『電柱小僧の冒険』もネッフリ塚本作品ラインナップに入っていたことで、これがまぁすごい。狂気。
お話は背中から電柱の生えたいじめられっ子中学生が自作のタイムマシンで未来に行ったらそこはサイバーパンク吸血鬼の支配する暗黒世紀で、日照時間を無にする最終兵器アダムスペシャル爆弾を開発すべく四畳半部屋のアジトの押し入れで処女をチューブ漬けにしているサイバーパンク吸血鬼を倒すべく、電柱小僧がレジスタンスの女闘士と共闘するというもの。
「お話は背中から電柱の生えた」の時点で理解の範疇を飛び出している気もするが、こんなわけのわからないストーリーを、わけはわからないがチープで爆発的な強烈ビジュアルと怨念すら感じられる熱気演出・編集で理解の暇もなく見せ切ってしまうのだからすごい。すごいし、興奮するし感動するしめちゃくちゃ怖くもなる。
たとえ誰にも理解されなくても全然構わないし理解させる気なんて毛頭ないような、ただもう自分の脳内にある自分望む映像が造りたくて造りたくてしょうがないっていう創作衝動のマッドサイエンティスト的発露の凄まじさに。
サイバーパンク吸血鬼の親玉が田口トモロウ。ばちかぶりとして音楽も兼任。その仲間の吸血鬼を歌舞伎的というかグラムロック的というかビジュアル系的というかなバリバリメイクで演じるのは塚本晋也本人。
このへんのキャスティングはそのまんま『鉄男』に引き継がれる感じだが、それにしても田口トモロウも塚本晋也もかぁっこいいなぁこの頃は(も)。
【番外編】『震える舌』(1980)
破傷風に冒された少女の闘病記(ノンフィクション的原作あり)をホラーに分類するのは不謹慎ではないかとの思いもあるため番外編枠としたがそもそも監督の野村芳太郎からして恐怖映画のつもりで撮っただなんだと言っているし野村芳太郎といえばその数年前には松竹オカルト版『八つ墓村』を手がけているし、予告編を見れば「少女は悪魔と旅立った」とか「日常に潜む恐怖」とかの文言が踊っているので完全に『エクソシスト』的オカルトホラーを意識している。変な配慮は別にいらなかった。
なにが怖いかといえばそれはまぁ悪魔も怖いが幽霊も怖いが他人の暴力も怖いが、やっぱり病気が怖い。というわけで『エクソシスト』ばりの海老反りまで取り入れた血と呻き声に塗れた闘病風景がダイレクトに怖い。
とにかく刺激を与えないように闇に閉ざされしんと静まりかえった病室をカメラはずっと捉えていくので、その怖いがじーっと低体温状態で持続する。で、緊張の糸がゆるんだ瞬間、少女の地獄の叫びが上がるんである。これは心臓によくない。
悪魔はたぶん防ぎようもないが破傷風なら予防は可能なので、こんなの見たら嫌でも破傷風めっちゃ気をつけようっていう気になる。荒治療が過ぎると思うが啓蒙効果はありそう。そういう意味では極めて真面目な教育映画。
病に苦しむ娘を他に為す術もなく見守ることしかできずに日に日に憔悴していく父親・渡瀬恒彦の痛々しい名演も大いに見どころ。親子で見たいトラウマホラーというのがもしあれば、たぶんこれ。