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食品アレルギーを揶揄したシーンにクレームがつき製作側が謝罪に追い込まれた、との不名誉なニュースで公開前から変に話題になっていた(映画『ピーターラビット』 宿敵に食物アレルギー起こさせる 批判殺到 ソニー謝罪-AFPBB)がいざ公開されてみるとなぁんだ全然当該シーン(未削除)に言及している人がいないじゃないですか。
そりゃあこんな悪ガキ映画ならアレルギーもネタにするわな。また変なクレーマーに表現の自由が脅かされて…みたいなオラオラしい文運びになると思いましたか。いや違います。すいませんぼくそういうノリの良いタイプの人間じゃないんですよ。
ウサギどもが食品アレルギーを利用して邪魔なオッサンを殺そうとする場面がボイコット運動にまで発展したのはそれなりの理由があるわけで、というのもほんの2年前、本国イギリス(製作はアメリカ)ではピーナッツアレルギーで2人の客を死に至らしめた飲食店の経営者が過失致死のかどで禁錮6年の実刑判決を食らった事件があったばかりなんである(ナッツアレルギーで客がショック死、英インド料理店主に禁錮6年-AFPBB)
食品アレルギーの語からどのような症状を連想するかは人によりけりでしょうからその判決はちょっとアレルギー的過敏反応が過ぎると考える向きもあるかもしれないが、ともかく、事実として言えるのは食品アレルギーで場合によっては人はマジで死ぬ。かつ死なせた方も人生プランが死ぬ。
ピーナッツアレルギーなんかは近年アメリカを中心に先進国で急増傾向にあるらしく、どうも理由があまりよくわかっていないというので半ばパニック的な過剰反応を一部に引き起こしてしまってもいる(とぼくには見える)。
そうした状況下で例の描写が反発を受けるというのも無理からぬ事で、一つには前述の事件やアレルギー禍に対して無頓着過ぎないっすか的な不謹慎系クレームもあるだろうし、そのへんは俺の中では表現の自由の範囲で許される部分なんですが、重いのはもう一つ、子どもが面白がって真似したらマジで洒落にならねぇよっていうそこですねそこ。
ネッフリドキュメンタリーの『食品産業の腐敗』などを見ると急増する食品アレルギーに対して啓蒙の不足も指摘されており、なんでパニックみたいになるかって原因もわからなければ確たる治療法もない、かつアレルギーでマジ人死ぬからアレルギー表示徹底しよう的な啓蒙も進んでないっていう複合的な背景があると。
そうするとやっぱこれいかんのじゃないかなっていうのは製作元のソニーの謝罪声明なんか読むと思うわけです。
食物アレルギーは深刻な問題だ。たとえ漫画的でどたばた喜劇風な表現だったとしても、われわれの映画の中でピーターラビットの宿敵であるマクレガーのブラックベリー・アレルギーを軽く扱うべきではなかった
映画『ピーターラビット』 宿敵に食物アレルギー起こさせる 批判殺到 ソニー謝罪-AFPBB
「漫画的でどたばた喜劇風な表現」だから逆にやべぇとの認識がないのはたいへん残念であるし、そのせいで楽しい映画のはずなのにもやもやした気分で見るはめになったのもたいへん残念っすわ。
いや俺はですよ別にあの場面カットしろとは思わないんですけど、ただ冒頭でもエンドロール後でもいいからああいうこと絶対やっちゃいかんすよ的なアナウンスのテロップぐらいは入れるべきだったとは思いますよやっぱ。
ソニーの偉い大人でさえ事の重大性がわかってないのにもっと重大性のわかってない子どもも見る映画なんだからさぁ、これ。
でも食品アレルギーはゼロ配慮ノン啓蒙でしたけど別の意味で超啓蒙映画ではありましたね。ウサギ、めっちゃ害獣。あれはダメだ田畑は荒らすし家で寝てると殺しに来る。これは巣ごと殲滅せんといかん。
あんなもん可愛い可愛い言ってるビアさん(ローズ・バーン)の方が殺しの標的マクレガーさん(ドーナル・グリーソン)より遙かに危険に見えるし、そんなに可愛いなら飼育すればいいのに野に放って隣家の作物を襲わせるままにしておくとか常軌を逸している。
すごいよね。こんな可愛い見てくれで釣っといて出てくる誰にも感情移入の余地がないとかすごくないすか。アクションすげぇ的な感想がよく聞こえてきますが俺アクションよりその割り切りに息を呑みましたよ。
アナーキーだ。人兎戦争の最終局面とか『逆噴射家族』みたいだ。殺るか殺られるかしか道はない。ある意味『パンチとジュディ』の系譜に連なる伝統的な英国暴力喜劇だがでもこれアメリカ産だよね(という捻れ状況が不謹慎感を増しており他愛のないジョークすら黒光りしている)。
吹き替えで見たらピーターラビットの声が千葉雄大。だがサプライズはもう一人の千葉、すなわち千葉繁だ。出るんだよ千葉繁、叫ぶんだよ千葉繁。「まぁた夜が明けちまったのかぁ! 昨日の夜で世界が終わったと思ったのにぃぃ!」。なにを言っているのかよくわからないが気持ち『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』してます。
楽曲も一部吹き替えになっていたが原語ではリンキンのマイク・シノダらしいスズメラップの日本語版を歌うのはDiggy-MO’ってなんだ、なんなんだそのゲスト陣の無駄な力の入れようは。ありがとうございます。
内容が内容だから最近流行りの? 写真送ってねキャンペーンがスタッフロール後に付いてきて、全国のみなさん投稿の可愛らしいペットウサギ画像が流れるんですが、「可愛らしいウサちゃんたちの姿をお楽しみ下さい!」とかいうテロップが煽りにしか見えないよねこれ。
あそこ一番笑ったよ。絶対こんな映画だと思って送ってないよね。アレルギーもそうですがウサギ投稿勢からのクレームがなかったのか笑いながら心配してしまったから内容が内容なら広報も広報だ。パンクである。
手紙かなんかに暇つぶしで描いてた悪戯ウサギが誰かの目に留まって出版へというのがピーラビの始まりとBunkamuraでやってたピーターラビット展で読んだので(半券が可愛いのでまだ本の栞にしている)、どうせピーラビユニバースのほかの動物たちのお話も風刺とナンセンス小話みたいなのばっかだったと思うので、これはもうこういう感じでいいんだろうな。
ビアトリクス・ポターとかジュリア・マーガレット・キャメロンとか、ヴィクトリア朝の有閑夫人アーティストの素朴な中に屈折を宿した表現欲求はパンク精神と通ずるものがあるんじゃないかと思うので、やれラップだ爆発だハロッズ破壊だ、とかなるのは原作をぶっ壊してるようでいて案外と原作の精神的リスペクトなのかもしれない。
でも食品アレルギーの注釈はやっぱ入れておかないとダメだろ。何度でも言うからなそれは。
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なんか冒頭の感じが似てたので。あと動物が全然可愛くないのも似てたので。破壊的スラップスティックというのも。