《推定睡眠時間:0分》
※以下は公開時に書いて一旦はここで公開していたが後々恥ずかしくなって削除してしまった感想をちゃんと恥ずかしくないように編集したものです。
幸福の映画である。観れば幸福になる映画じゃなくて幸福の科学の映画である。原案・監修・製作総指揮が大川隆法。大量に貼られたポスターと映画サイトという映画サイトを埋め尽くす番宣記事にデカデカと名前載ってんので信者以外に売る気ねぇだろと思ったが、物好きが引っかかるのも見越してやがるんだろうか。
本編前には来春公開予定の幸福映画のティーザー予告編が付く。『UFO学園』も英語タイトル見ると「PART 0」とのことなので続編やる気マンマンである。その商売の上手さと資金力は羨ましい。
あらすじとかはなんか適当な外部サイト参照してください。あの、あれですよなんか狙われた学園的な。あとちょっとペルソナ感とかもあるんじゃないすかね、気持ち。
それにしても山奥に聳え立つナスカ学園はギリシア建築風の壮麗なみてくれなのだが、これはどうやら那須にある幸福の科学学園のことらしい(那須とナスカ…)。
寄宿制でありつつ(少なくとも映画の中では)自由な校風。雄大な自然に囲まれた広々とした校舎…と舞台設定からして既に幸福の科学の目指すものがいかに素晴しいかを表現しており、凡百の布教アニメとは一線を画す手練れた手腕にちょっと驚く。
なんとなく今風の作画、比較的自然体で馴染みやすいキャラクター造形、何気ない日常の中に徐々に異形が入り込んでくるサスペンスに程よくコミカルなティーン青春模様を絡めたシナリオもかなり「見れる」レベル。
最後には悪い宇宙人レプタリアンが襲撃してくるアクションシーンも用意されていて、超展開に次ぐ超展開で隆法ロジック炸裂な中盤を受け入れることさえできれば、さほど幸福映画だと意識せずに楽めるかもしれない。
さりげなく「入信すれば恋人が出来るよ」的な下世話なメッセージまで織り込んである。巧みな布教映画である。
メーテル風の宇宙人が出てくる。ペルソナっぽいとは先に書きましたが、日常に裏側に潜む恐怖が幸福の科学の教義に準拠した良い宇宙人と悪い宇宙人の宇宙規模の戦いにシフトしてくあたりはクトゥルー神話の断片と言えなくもない。
節操がないと言えばそれまでですがパクれそうなもの全部パクってチャンポンするこの神経の太さ。モラル的にどうかと思うがそのへん面白さに直結しているように思ったので映画の業を感じてしまったよね。
ところでペルソナっぽいというのは『ペルソナ4』とか最近のやつだけを指してるんでなく『ペルソナ2』とかも含めてのことで、というのも『ペルソナ2』はこんなようなストーリーだったのだ。
時は1999年。地方都市のスマル市はいつからか噂が現実になるという怪現象に見舞われおり、ミッションスクールに通う主人公たちの日常も噂によって壊れてく。
噂は噂を呼んで妄想は妄想を呼ぶ。噂発祥のよくわからんオカルト事件の連続に人々は自己実現願望とごっちゃになった世紀末気分を募らせて、世紀末の到来とともに地球は崩壊するとか、自分たちは良い宇宙人の末裔だから救われるとか、街の下にはナチスが追い求めた秘宝クリスタル・スカルと宇宙船が埋まってるとか、それを狙って実は生きていたヒトラーがナチスの科学技術の粋を集めた特殊部隊ラストバタリオンを率いて街にやってくるんだとか…というのが全部現実になっちゃって大変というそういうお話が『ペルソナ2』なんですがー。
おもしろいのは道具立てでも共通する部分が結構あり、将来の夢がどうとかプレアデス星人とのチャネリングがという電波立ったシナリオが『ペルソナ2』だったが、『UFO学園』の方もやはり将来の夢がプレアデス星人がチャネリングがというのがキーワードになんであった。
UFO業界と電波業界には疎いのでプレアデス星人がメジャーなのかどうかは知らないが、『ペルソナ2』はまだアングラとサブカルの色濃かった頃のアトラスゲーなので、電波系の資料を漁ってるうちに幸福の科学と共通する所に当たってしまったか、あるいは(オウム事件を受けての)意識的なものだったのかもしれない。
『ペルソナ2』の方は妄想は妄想としてその成就の代償、現実の痛みを描くが、言ってみればそれを全部抜いたのが『UFO学園の秘密』であった。
宇宙人にアブダクションされた主人公たちはそこで自分たちが宇宙人の生まれ変わりであると知り、地球への愛と将来の夢と希望と…つまり平和の使者としての使命に目覚めるわけである。
この「夢」の扱いも比較してみると興味深いところかもしれないなぁ。『ペルソナ2』には夢を叶える力を持つカリスマ教祖的なやつが出てくるのだが、ケータイで自分の番号にかけると来てくれるこのインスタント教祖の前で自分の夢を語れないやつは影人間にされて存在が忘れられてしまう。
大志を持たない人間に存在価値はない…とまでは言っていないかもしれないが、『UFO学園の秘密』は稚拙なエリート願望を隠そうともしない。端的に言えば現代的な意味での厨二病である。
主要キャラクターのTシャツに「ポジティブ!」の文字が書かれている『UFO学園の秘密』だったが、ポジティブとくればやはり『ペルソナ2』のキータームだった「レッツ・ポジティブシンキング」を想起せずにはいられない。
前編の『ペルソナ2 罪』で主人公のティーンどもを導いたこのうつくしい言葉は、その帰結としての後編『罰』ではアイドルプロデューサーの夢に破れた自己啓発セミナー講師が憑かれた目で連呼する空虚なスローガンと化すのだった。
…なんか『ペルソナ2』の感想になってしまってる気がするが、まぁそれも含めて(?)ハッピー映画の中では屈指のおもしろ映画ではありましたね、『UFO学園の秘密』。
【ママー!これ買ってー!】
BLもキッチリ取り入れてるから鋭敏な現代批判(当時)っていうだけじゃなくて先見の明もあったと思うんですよ。