《推定睡眠時間:0分》
剥き出しになった臓器の脈動といい執刀医の命令の流暢な抑揚のなさといい手術の場面がいやにリアルでグロ可笑しかったのですがパンフレット見たら声をアテたのは渡辺謙って『海と毒薬』じゃんそれ!
この場合は島が舞台で毒薬が出てくる(そして犬体実験も出てくる)ので島と毒薬ということでそんな映画オマージュとパロディがてんこ盛りの…いや『海と毒薬』は意識的なパロディか偶然の類似か知らないが、でもジパングネタでスカーレット・ヨハンソンとビル・マーレイの『ロスト・イン・トランスレーション』コンビが声の出演だろ…劇中使用言語とトランスレーションに関するオープニングのユーモラスな“前置き”もあれ、絶対そこを絡めてのネタだろうからやっぱ『海と毒薬』もパロディなんじゃないすかね。わんわん夢の島はイースターエッグがたくさん埋まってます。
そのわんわん夢の島には震災で色々流れ着いており的なざっくりSF背景があるので廃墟の上に乗り上げたまま放置状態の客船というのが出てきたりする。
震災モニュメントにするしないで若干揉めたのち解体された大槌町のあれですが、だからと言って仏頂面で社会批判がどうのとかするつもりは一切ない映画なので、船は“オラクル”の異名を持つ孤高ドッグスの隠れ家になっているのであった。
発想めっちゃ小四じゃん。ありがとうウェス・アンダーソンと仲間たち。俺もあれ超かっけぇじゃんと思ってたけど不謹慎な気がして声を大にして言えなかったんだよ…「私は留学生なので言いたいことはズバズバ言いますしそれで軋轢を生むかもしれませんが理解してください」(と、そんなような台詞があった)。
お話の方は夢の島アドベンチャーという感じでは全然なかったのでザ・巨大権力の策謀によって捨てられた愛犬を求めて主人公の少年その名も小林アタリくんがわんわん夢の島に降り立ったその頃、わんわん夢の島を管理する『がんばれゴエモン3』的江戸フューチャーな巨大都市メガ崎市(縦書きにすると希崎市のようになるぞ!)では犬ホロコーストを推進するザ・巨大権力を打倒すべく親犬学生活動家たちが立ち上がろうとしていたのだ的なわくわくストーリーからアタリくんのティーンエイジ・ライオットを期待せずにはいられないが、そんな『AKIRA』みたいなことにはなってくれない。
いやある意味なってくれていたかもしれないがそこはオフビートなので犬の戦闘場面なんかは漫画的喧嘩もやもやに包まれる『カエルのために鐘は鳴る』方式です。
アドベンチャーはアドベンチャーでも『ゼルダの伝説』ではなく『カエルのために鐘は鳴る』。ここ重要。でも小四的発想で埋め尽くされたあの島はわんわん夢の島というよりは(ウェス・アンダーソンと仲間たちが)夢を見る島だからそこは『ゼルダの伝説』ですよね。なんの話?
おもしろかったところと言えばそういう映画であるから場面場面ぜんぶ小四的におもしろいわけで、ティーンエイジ・ライオット感もっとあったらよかったのにぃとは思わなくもないがそんなものは絵本にバイオレンスを求めるような無い物ねだりであって…との喩えも実写映画版『ピーターラビット』が『プライベート・ライアン』を参考にしたとの怪情報が飛び交う中では説得力がない気がするがとにかく! ディティールを! ディティールを愛でるドールハウス型の映画ということですよ!
ザ・巨大権力と結託してザ・ヤクザと共に犬ホロコーストを図るザ・悪徳製薬会社の名前が“小林ドラッグ”とかそういうのがいちいちおもしろいんだよでもこれクレームつかなくてよかったですね。あぶないよ、たとえ偶然だとしてもネタがあぶない。小四的感性で真剣に遊ぶことは図らずも大人社会への挑戦になってしまうという好例。
震災の船とか原子力発電所の廃冷却塔群とかハチ公とかオノ・ヨーコとか神奈川沖浪裏(犬)とかおもしろそうなものなら躊躇うことなくなんでも使う煌びやかな象嵌の一片がサイバーパンクの意匠なのかと思ったが結構、そういう意味では単なる素材じゃなくてわりと本質的なところでサイバーパンクっぽい気がしたな。
ロジャー・ゼラズニィだって『北斎の富嶽二十四景』の題でサイバーパンク短編を書いている。ウィリアム・ギブスンが当時思い描いていたチバシティがメガ崎市のようなものだったとしても別におかしな話ではないんじゃないか。
あとぼくが似てるなって思ったのはポン・ジュノの『吠える犬は噛まない』と『オクジャ』なんですけど、なにが似てるって社会へのゆるいコミット感とか、アイロニーを含んだアジテーションとか、箱庭で遊びながらアクチュアルっていうバランス感覚で、そういうところのセンスがサイバーパンク性に繋がってるのかなぁなどとも思いつつ…しかし天才ハッカーのドヤ顔(最高)とか夏木マリとまったく会話が噛み合わないグレタ・ガーウィグ(大笑い)とか『スーパードンキーコング』の工場ステージみたいな焼却炉とか犬犬犬の顔顔顔とかとかとかを見ていたらそのへん、どうでもよくなりますね。愛でよう。
【ママー!これ買ってー!】
なんちゃって英語題が『StrayDog』な『ケルベロス』は忽然と姿を消した体制の犬・千葉繁を追って元同僚の藤木義勝が台湾を訪れるお話であるからこれはもう押井守版の『犬ヶ島』なんじゃないですかねそのサイバーパンクとの親和性も含め。