なんじゃこりゃ映画『ルイ14世の死』感想

《推定睡眠時間:15分》

観に行ったら監督アルベール・セラ(アルベルト・セラ)の舞台挨拶があってフランス語だから何を喋っているのか微塵もわからないが通訳の人が今日は来てくれてありがとう、楽しんでもらえたら幸いです、なにか質問があったらお答えします、とか言ってたからあぁさっさと質疑応答に移るんだ次の回とのインターバルも短いし、と思っていたらそっからアルベール・セラがノってきちゃってマネキン劇の如く登場人物が動かない映画とは対照的なダイナミック身振り手振りで演出意図や撮影面白エピソードを全部自分から話し出してしまう。

言うかね。みなさん普通はこういうアプローチ(※ソクーロフ風の荘重な会話劇というか)で映画を撮ったりしないんですが私はやりました、とか自分で言うかね。こういうタイプの映画が劇場でかかるのはとても貴重ですとか言っちゃうかね。
とても淡々とした映画ですが所々に皮肉がまぶしてあり退屈させません…通訳を介しての理解だから実際はもう少し謙虚だったり砕けたニュアンスの発言かもしれないがそこまで自分で言ってしまうかね映画見終わったばかりの客に対して。太くない神経。

別にそんな自画自賛しなくてもどうせ質疑応答コーナーになったら舶来物の権威に弱いヘタレやさしい観客どもが質問の体で褒めてくれると思うんですよ…でも我慢できないんですよアルベール・セラ…もうマイクへの食いつきが半端ないからね。
通訳の人が一通り訳し終わったらすかさずスーパー俺タイム始めるから先に進まねぇよ。なんなら訳してる途中でも言い忘れた事をどんどん付け足していくから終わらねぇし逆にテンションがどんどん上昇していく。

MAXキャパ100席のシアターで客入りせいぜい30人程度だというのにその異様なハイテンションはなんなんだ。多少落ち込むとかないのかよ一体何がアルベール・セラを駆り立てているんだよ。だいたいお前そんなハイテンションな映画撮ってなかっただろ。
シュールだったな。噴火待ったなしのセラしゃべくりを通訳の人が冷静に逐次通訳するのを映画マニアどもが糞真面目に聞き入っている光景は。

「これは一体!?」は映画の惹句ですが映画よりもアルベール・セラに対してそう思いましたね俺は。こいつはクセ者ですよ。映画の内容には少しも触れず舞台挨拶の感想だけでここまで約1000字ですからね。
メジャー邦画の芸能人大量登壇舞台挨拶でも媒体によってはレポートが1000字に達さない中でアルベール・セラは単独の舞台挨拶で1000字書かせますからタダ者じゃないですよ…映画が面白いか面白くないかは別として…。

余談ですがこの舞台挨拶の司会はたぶん映画を配給したムヴィオラの人で、そういえば前に別の映画のトークショーでも見た気がするがその時もやたらバタバタしたイベントだった(※劇場側の準備不足による)。
セラの暴走で時間が大幅に押しちゃって混雑回避のために次の回の客を舞台挨拶中に一部場内に入れてしまう緊急措置まで取られたぐらいだから劇場とセラの板挟みで司会の人はさぞ大変だろうなと余計な心配をしながら眺めていたのですがー、そんな気配は全然見せずむしろどんどんノってくるパッション・セラにノってみせるプロ司会っぷりだったからつよい。
これはちょっと期待してしまうな、この人が次にどんなクセ者とかハプニングを呼んでくるのかっていう…それもう全然映画と関係ないですが。

それで映画の内容の方はあれですよソクーロフとかグリーナウェイとか? デレク・ジャーマンとか? なんかそのへんのアート映画の系譜という感じで上映されているのもイメージフォーラムとかですからこれは一体的な意外性は別に感じないアート的にかなり既定路線というわけで(いやそれを興行として成立させるのは確かに挑戦だと思いますが)映画の俺ジナリティをセルフ激推しするセラに激しくツッコミを入れたかったがそこも含めての『ルイ14世の死』ですよ。

つまらない臣下どもに囲まれて病床で退屈な死を待つばかりのルイ14世(ジャン=ピエール・レオ)もこんな胸の内だったのでは。
日に日に食欲が衰えていたためとはいえビスケット食っただけで拍手喝采とかそんな老人レクリエーションじみた真似をされたらツッコミの一つや二つ入れたくなるだろう。ビスケットしか食ってねぇよみたいな。
逆に「あの医者は…」「捕縛しろ」「ははぁ!」みたいな会話とかは絶対ツッコミ待ちだったと思いますね。いや捕まえんのかよ的なツッコミが欲しかったんじゃないすか。
だってそんなハプニングでもないとあまりにも退屈だろう、避けられない死の運命が…。

偉大なる死の風景の環境音として空気を読まずに鳴り続ける鳥のさえずりが可笑しい。人を食った音の入れ方。ぼくはアルベール・セラという人の映画はほかに『ドン・キホーテ』題材の『騎士の名誉』しか見ていないのですが、あれも音がふざけていてドン・キホーテに向けたマイクで離れた位置のサンチョの台詞を拾うから何言ってるのかよく聴こえない、というシュール加減なのだった。

でもこういうの、実際のところはふざけているのかなにかしらアートな意図があるのかそれとも単に機材がなかったのかは全然わからんのである。
どこまで本気でどこまでネタかよくわからんというのは『ルイ14世の死』もそうであるし、アルベール・セラ自身もやっぱそんな印象だったので、一言で俺のアルベール・セラ体験をまとめるとやはり「これは一体!?」となるのであった。あやしい。

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なんかキュレーター感覚みたいのが似てるんじゃないですか、グリーナウェイとセラ。実はあんまりレンブラントに興味がないと率直に語るグリーナウェイとルイ14世を題材に選んだのは単純に超偉い人だったからと事も無げにぶっちゃけてしまうセラなのだった。

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