《推定睡眠時間:0分》
なんとなく気の抜ける締まらないタイトルはそのまま脱輪事故を表しているのだろうし棚上げ&先送りにされ続けてきたタイヤ問題=大企業のリコール隠しのダブルミーニングでもあるのでしょうが巧いなぁって思うより野暮ったいの所感が先立つ。
野暮ったい。寺脇康文の刑事とかバタ臭さMAXで超野暮い。反目しつつ共闘してきた運送会社社長の長瀬智也と脱輪車両メーカー販売部課長のディーン・フジオカが互いに背を向けて反対方向に歩き出すラストシーンとかな。
どうせ悪口から入ってしまったので俺の感じたそれはねぇだろを一気に放出してしまおう。子役めっちゃ雑。子役めっちゃ雑。子役めっちゃ雑。説明は特にいらない気がしたのでしない。
それから大資本に翻弄される中小企業の社長を頼れるお父ちゃんとして描き出し拡大家族としての昭和的企業共同体、または逆に企業共同体の縮小版としての家族の分業制を懐古的に美化するセンスの鈍さ。
最後に、取って付けたようなインターネット描写およびPCとファイルを同一視するレベルの情報リテラシーの無さ。
ぼくが一番それはねぇだろと思ったのは最後のところなので詳述すると脱輪事故を起こして人が死んだからと長瀬ジュニアが学校で「人殺し!」などといじめられ、それも因果関係が微妙すぎるので若干無理がある気がするがそのエピソードに続く長瀬社長に対する妻(深田恭子)の台詞を要約するとネット掲示板に悪口を書かれていたのでいじめた子どもたちの家一軒一軒を訊ねてお宅の息子はネットにこんなこと書いてませんかと問い正したら掲示板が炎上して閉鎖になったとのことであるが何を言っているのかサッパリわからない。
原作が書かれたのは2005年だそうなので恐らく学校裏サイトやブログ炎上のイメージなのだろうがそれを2018年現在の物語として語り直すのならSNSを絡めて改変するかカットするかあるいは時代設定を2005年に明確化すべきであって、さもなくば当時とは炎上の性質もネット言論空間も変わってしまった現代では意味が通じないという話なのだがその意味が通じないということを作り手が理解しているかどうかがまず怪しいのでそれはねぇだろ、となる。
そもそも2005年の出来事と仮定しても親に直訴することが掲示板の炎上および閉鎖とどう関係するのか一切わかりませんが。
キーが乗ってきてしまったので更に続けるとこれもまたすごいのだがリコール隠しに関する極秘ファイルの入った廃棄ラップトップPCを内部告発用にサルベージしてきたホープ自動車の社員がこんなことを言う。壊れたと思って廃棄にしたんですけど後からソフトの問題であることがわかって回復したんです!
なんの話をしているのか。リカバリかけたら直ったとかそういうことが言いたいのか。いやそれはいいけどデータ消去しないで廃棄にしてたのかよ今まで。そんな雑管理があっていいのか。そんな雑管理やってる企業体質だからリコール隠しがまかり通っていたのかもしれませんが…。
これがディティールの甘さというだけなら別に構わないが酷いのはリコール隠しを主導していたホープ自動車の悪代官的常務取締役・岸部一徳をやっつけるのがこのPCなのであるから展開に直結してしまっているというところで、その一部始終を以下に再現。
取調室で寺脇刑事と対峙する悪代官岸部。リコール隠しの証拠なんてどこにあるんですかねぇと白を切る岸部に寺脇は件のPCを突きつける。このPCにおたくらの関与を示す文書が残ってる!
ほぉ、それでその文書の出所がウチであるとの証拠はどこに…(寺脇、PCをくるり)それはウチの社のPC管理シールじゃないかぁぁぁ!
『逆転裁判』だったら確実にライフが減る「つきつける」だと思うが岸部一徳はこれで死んでくれる(比喩)のでラスボスと思わせておいてチュートリアル級のザコだったことの衝撃的残念。
ねぇよ。それはねぇ。リテラシーひでぇ。あとホープ自動車に家宅捜索が入ったとのテレビ速報が流れるところが映画のクライマックスでしたがまだ裁判も行ってないのにそこで勝ったムード出していいのかっていう、その後で事件に関与した人間がだいたい降格させられるとかそれ単に臭いものに蓋してるだけで誰もリコール隠しの土壌に切り込んでねぇじゃねぇかっていう、そりゃあ観客の溜飲は下がるかもしれませんがリテラシーも意識も低すぎないですかねちょっと…。
でもこれだけ悪く書いた後になんですが面白かったすよ。重々しくないからいいですよね。シリアスですけどサッパリとしていて。軽妙なというわけではないんですけどスピーディな展開の企業群像劇になっていて、会話とかも基本的に双方が一方的に言いたいことを言うだけで対話というものが成立しないからそこでスピードダウンしない。
でもあれだなそれ、ジパング企業人の代表的ダメなところとして頻繁に槍玉に上がるものだしそういうコミュニケーション下手は組織的隠蔽とも無関係ではないよなと…ほらもう、面白かったと書いたそばから悪口が出る。
事故の原因を整備不良とする検査結果(捏造だったが)が出るや否や自社整備担当者の言い分も聞かず聞き取り調査すら行うことなく一方的に社から追い出し、事故を受けて手を切ろうとする取引先や銀行の融資担当に「長年の付き合いじゃないですか」のキラー台詞で掛け合う長瀬社長の姿は同様のロジック&レトリックを駆使する岸部常務とそれほど違ったものとはぼくには思えないのですがそこらへんの対比とか批判的な視座のようなものはないのでなんだよこれみたいな、どんどん出てくる、書いているとどんどん悪口が出てくるよ。
だからやめよう。おもしろかった。実際おもしろかったからぼくはもうそれでいいです。たのしいねオールスターキャスト。若手と中堅と大御所爺の適材適所アンサンブルはたいへん見物。ディーン・フジオカよかったよ。ムロツヨシもよかったよ。長瀬智也はいつもの長瀬。
でも強いのはやっぱ爺連中だなというわけでMVPは長瀬社長を影で支える笹野高史です。こんなステロタイプな執事キャラも笹野高史の老獪を得て映画を現実につなぎ留める重しになっていたなぁとおもいました。
【ママー!これ買ってー!】
リーマン・ショック題材のリアリスティックな金融群像劇ですがこれが実に面白いのですよ。
↓原作