《推定睡眠時間:0分》
先週の『ダークサイド』に続いてまたもや夫婦関係の冷え込んだ下半身の抑制できないニコラス・ケイジだったのでいい加減にしろよと思うが『ダークサイド』と違って『マッド・ダディ』は(エロ妄想として)ぷるぷるのおっぱいに顔を埋めたニコケイがうっひょーってなるシーンがありましたから許す。バカとろくでなし方向に振れているから許す。
許すけど全然意味ないよな。これが逆噴射的家庭内バトルだったらマッド・ニコケイの中年の危機描写として回春願望が出てくるのは理にかなっていると思うが基本的なプロットは『地球最後の男たち THE SIGNAL』と同じで、テレビというかモニター類全般からの謎シグナルを受信した親たちが子どもをぶっ殺そうとするゾンビ映画のバリエーションなので(じゃあニコケイの悩みあんま関係ねぇじゃん…)ねぇからなんだよなくてもいいんだよなんでも理屈に回収しようとするな!
いやそれは映画をちゃんと見ていないからであのシグナルは子どもの養育のために理想や自由を捨てた親たちの心の澱を掬い上げる『CURE』の殺人催眠術のようなものなのだと好意的に解釈することもできるが出産したその場でシグナルを受信した女が新生児をぶっ殺そうとする凄いシーンもある映画なのでそれはやっぱ無理があるだろ。
だいたい『アドレナリン』のブライアン・テイラーがそんなことちゃんと考えてるわけないんですよ。『アドレナリン ハイ・ボルテージ』でジェイソン・ステイサムを巨人にしたり首だけ怪人と戦わせたブライアン・テイラーがプロットの整合性とか考えてるわけないんですよ!
どちらかといえばこれは口実であって何の口実かと言えば対嫡出児に特化した親ゾンビがハイスクールを襲撃するゾンビスペクタクルの、じゃないですかね。それと馬鹿馬鹿しくもショッキングな出産即殺とかの。
でもそういうゾンビ見せ場のための設定にしてはレイティング配慮なのかテーマを考慮した自主規制なのか知らないが殺人描写が激甘なのでなんかよくわからん。
そのくせシグナルを受信してしまった一人の父親が子どもを殺るべくビール瓶を手に取って直接殴るのではなく一旦斜めにテーブルに叩きつけて即席刃物にする、とかバイオレンス感覚は変にリアルなので尚更よくわからないが、ともかく怪作というのはニコケイの暴走っぷりを見てもハッキリとわかる。
本当によくわからない怪作なんだよ。緊迫のゾンビパニックの最中に突如としてニコケイがビリヤード台を自作する比較的長めのエピソードが入ってきたりしてそれなんだよ、その場面いるのかよ、あとなんでビリヤード台なんだよっていう…。
と言いつつこのビリヤードDIYのシーンはニコケイ的に映画のハイライトだからな。ええんですよ、ビリヤード台の傍らで妻のセルマ・ブレアにしょぼくれ中年の心情をキレながら吐露するニコケイ。昔は名前で呼び合ってた! でも今はママとパパでしかない!
泣けるな。でもなんでその良い芝居を出してくるのがビリヤードDIYなんだ(スケジュール的な理由かもしれない)
家庭内バトルだけだと地味なので後からゾンビパニックを付け足したかあるいは逆にゾンビパニックに寄せ過ぎるとニコケイの見せ場が無くなってしまうので本筋から離れたところで強引にニコケイの芝居場を作ったような感じもあるが、とまれストーリー的にはこれこれの夫婦の危機を経て夫婦の絆をそして失われた若さを取り戻すべく子殺しの夫婦共同作業に入るのでニコケイの熱演は無駄ではなかった。作るのが共同作業なら殺るのも共同作業。夫婦の児童虐待というのもまぁだいたいこういう心理状態なのではないの。
それにしても子どもを見つけるや否やダッシュで殺りにかかる他のゾンビ親と違ってニコケイ&セルマ夫婦はかなり計画的に殺ろうとする。
密室に閉じこもるお子様ふたりをガスで炙り出そうとするところの冷静な鬼畜っぷりなんて笑ってしまった。笑ってしまったが、そこは黒笑に満ち満ちた映画だからいいのだが、でもあれだなこれニコケイ&セルマはテレビの(モニター類全般の)毒電波を本当は浴びてなかったのかもしれないな。結構寝たのでよくわかりませんが。
子殺しパニックに便乗して殺ってしまおうとする親の話だとしたらちょっと怖いっすよねぇ。寝ていたとはいえそのへん掘り下げてる映画ではないと思うのですが怪作はいろいろ解釈できる。それが言いたかっただけですが。
家族バトルが佳境に入ったところで寝て近くに座ってる人の笑い声で目を覚ましたら既にエンドクレジット。肝心なところを見れてない。そこは見ておきたかったなぁ。
親ゾンビの設定からもっと話広げられたんじゃないかとか、もっとえぐい殺人描写はできなかったのかとか、どうにも散漫でせっかくの黒笑も切れ味が鈍いので、せめて絶対におもしろいであろうオチの部分は…と思うがじゃあ寝るなという話にしかならない。
あとセルブレだねぇ。セルブレはセルブレで子どものためにキャリアを捨てた人。捨てたにも関わらず子どもめっちゃ反抗期でフラストレーション溜まってるというわけでそのへん、ニコケイよりちゃんと演っているのでネーム的にはニコケイより下に来るが実質セルブレが主役ぐらいな感じある。
大しておもしろくもないゾンビパニックの画とかいらないからセルブレとニコケイの子殺し中年夫婦ドラマの部分をもっと見たかったなぁと思うのですが、でもまぁベトナム戦争ジョーク的なやつをニコケイか娘がアジア人家政婦の前でうっかり口走ってしまいすぐに同席していたセルブレが謝罪するがその家政婦は中国人だったというデップーもびっくりの不謹慎差別ギャグで幕を開けるようなふざけた映画なのでそんな、真面目に見てもしょうがないだろう。
【ママー!これ買ってー!】
『パンク侍、斬られて候』も公開されるので。
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