《推定睡眠時間:0分》
ちょうど仕事帰りに行けるタイミングでやっていたというだけの理由で観に行っているのでタイトルから『おかしなおかしな石器人』とか『フリントストーン』みたいなものだろうのざっくり認識しかありませんでしたが『少林サッカー』寄りのエクストリームサッカー映画だったんですよこれは。
かつ、英国的パンク&シュールな笑い満載の負け犬奮闘劇だったんですよ。先史時代ものというカテゴリーでいうならば『おかしなおかしな石器人』よりも『PC原人』に近かったんですよ! 強調するところを間違っている気もするが。
いや面白かったな。これはもう最高、現時点で2018年下半期公開映画のベスト1ですね。まだ4本ぐらいしか見てませんがそこらへんは気にしないでハートで感じ取っていただきたい。
だって燃えるでしょ。時代の流れに取り残されたグレーター・マンチェスターならぬ緑豊かなクレーター・マンチェスター在住の石器人たちがいるんですよ。持ってきた岩を話し相手にしてるやつがいたりとか腹減ったら友達を食おうとするやつがいたりとかそれぐらいの文明レベルの。
でこの石器人たちは貧しくとも仲良く楽しく暮らしてたんですけどある日突然事件は起こる。物々しい装甲を纏ったマンモスなのかマンモス風のマシーンなのかよくわからないがスターウォーズの『帝国の逆襲』に出てきたみたいなでっかいのがやってきて、豊かな故郷は踏み荒らされ仲良し石器人たちはクレーターの外に広がる不毛の荒野に追いやられてしまったのだ。
その正体は超現代的な文明社会を築いた青銅器人であった。絵面的にはマヤに侵攻するコルテス軍みたいな感じですが大英帝国の自虐的帝国主義ジョークというわけで、石器人は鉱山開発の犠牲になったとこういう次第。
こりゃあもうだめだ、と絶望する石器人たちだったがそんな中! 野心と好奇心が満々の石器人ダグくんはこっそり侵入したグレーターな方の青銅都市マンチェスターで超絶大人気を誇るサッカーの試合を目撃してしまう。
ダグくんの脳が震える。これは…いにしえの壁画で見たことがあるぞ! 石器人たちが青銅器人に奪われた肥沃なクレーターにはまだ恐竜がいた先史時代の先史時代の壁画が残されていた。
そうです! そのむかしかの地に落下しファンタジックな恐竜たちを絶滅に追いやった隕石こそサッカーの起源だったのです! 石器人の祖先の原始人たちが火山噴火で落っこちてきた熱々の石ころをあっちっちっつって蹴ったり投げたりしているうちにサッカーになりました!
バカだなもう。でもダグくんはそれで奮起するのだ。我らクレーター石器人こそサッカーネイティブ。青銅器人にサッカーで戦いを挑んで故郷を取り戻そう!
ほら燃えるじゃん。こんなん絶対燃えるじゃん。めっちゃ燃えたよ音楽とかハリー・グレッグソン=ウィリアムズだしな(この映画で!?)
でもあれなんですよ上映時間とか90分切ってるぐらいだから石器人チームの一人一人のキャラを掘り下げて宿命の決戦に向けてのVS感を高めていくような感じではないんです。
もっと軽い。もっともっと軽い。努力も根性も狩猟採集民階級の悲哀もそこそこに英国英国したギャグのオンパレード。女王陛下の伝書鳩とか大爆笑ですよ。初めてサッカーに触れた石器人ズの野蛮もブラックで最高だ。「殴っちゃいけないゲームなんて何がおもしろいの?」
肝心の試合だって『地獄甲子園』ばりのスピード感で笑わせながらサササっと流しちゃうからね。おいそれで良いのかよって思うじゃん。でもわりとバリ泣きでしたよ俺は。
いいんですこの軽さが実にいいんです、爽やかそのもの。負け犬奮闘記にありがちな臭みがねぇんですよ色んな意味で。過剰なエモで客を釣ろうとする臭みとか。バカ設定に不釣り合いな社会性または社会的配慮の臭みとか。熱血と熱狂の臭みとかそういうのがない。
洒落てるなぁと思いますよ。あの原始人チームの人種とか性格の構成のさり気なさとかあぁいうのはあんま物事を考えてない人にはできないわけじゃん。素知らぬ顔でそれぐらい当たり前のことっすよねぇと言外に言う洒脱ですよね。
基本すっとぼけてるんですけれどもストーリー的にここだけは最低限必要っていうところはピンポイントで押さえた軽妙洒脱なミニマル美学、でもそのミニマルが映像美学としてだけあるようでもなしに。
やわらかすっとこなクレイアニメの質感も相まって強靱なヒューマニズムを感じたなこのミニマルは。経済棄民とかディアスポラとか性差別を描くのに別に肩肘張る必要ないっしょみたいな。そのへん結構泣きの所以だ(どうぶつを見下さないのもひじょうによい)
ぶさいくな石器人チーム。本当にぶさいくな石器人チーム(強調)。ぶさいくな原始人と原始謎テクノロジー&原始怪生物だらけのファンタジック先史時代はたいそうチャーミングでいやもうまったく。こんな作り込んでるのに89分で終わらせるっていうのもすごい判断。
かわいくない石器人どもも悪辣な青銅器人どもも若干キモ寄りの原始動物どもも結局はすべて愛おしゅうて仕方が無くなってしまうのでもっとじっくり観ていたかったが、クライマックスを過ぎたらそこでズバっと終わるというのも後腐れがなくて素晴らしいと思いますねぇ。
ちなみに日本語吹き替え版で観たが英語ダジャレ的なギャグと英国ローカルギャグの翻訳に相当苦労した様子が素人にも伺え、結構その手のネタが多い映画だったのでギャグを取りこぼしたくない人は字幕で観た方がよいと思われる(吹き替えは吹き替えでよく出来ていたし面白かったけれど)
【ママー!これ買ってー!】
これはあれだなリチャード・レスター風のギャグも香る気もするがリチャード・レスターといえばビートルズの『HELP! 四人はアイドル』なのでそこからリンゴ・スターの『おかしなおかしな石器人』に繋がって他いろいろ経由しつつ『アーリーマン』に到着の観が。
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