《推定睡眠時間:0分》
現役最強の殺し屋ガンサーを殺って業界ナンバー1の座をオーバー・ザ・トップしようとするポンコツ殺し屋軍団なのだったがガンサーの正体はシュワなので勝てるわけがないしガンサーは誰だ的なちょっぴりミステリー的な趣向があるもシュワを全面展開した宣伝によって観る前から既に謎が叩き潰されてしまっているからバカ映画なのにポンコツ殺し屋軍団の悲哀が濃い。
基本的には椅子に座ってインタビューに答えているだけのシャロン・ストーン・スタイルで王者の貫禄を見せつけるシュワルツェネッガー拘束推定二日間プラス歌唱録音一日。
たった二日しか現場に来ていない(推定)人間がずっと現場で体を張っていたポンコツ殺し屋軍団を食う。これがパワーか。筋力ではなく権力の方のパワーか。金力でも束になったポンコツ殺し屋軍団を遙かに凌駕しているからバカ映画なのにポンコツ殺し屋軍団の悲哀が濃い。あとオーバー・ザ・トップはスタローンだよねシュワじゃなくて。
だが正体不明のトップ殺し屋を殺れ系アクションミステリーといえば筋肉スタァ業界ではセガールが希有な成功例を作ってもいる。宣伝大使に任命された新規仮想通貨ビットコイイン(bitcoiin)が事実上立ち消えになって以降はいくつかの現実逃避ポエムを残してツイッター公式アカウントが沈黙してしまったセガールだが、セガールが殺し屋ナンバー1を演じる殺し屋アクションミステリーなどというコンセプトの時点でビットコイインばりに破綻していると思われたこの企画においてはセガールがセガールであるというまさにその点を巧みに利用しあるいはその点が偶然に作用し、タネ明かしのところで観ていて結構びっくりした覚えがあるがただテン年代セガール映画は粗製濫造が酷すぎてタイトルがまったく思い出せない。
それに関しては思い出せなくてもどうせ観る人もいないと思うので別に構わないがいやそんなことよりも、『キリング・ガンサー』もそういう意味でミステリーの成立していなさがシュワのシュワ性として逆説的にミステリーを生んでいたよなみたいなそういうところがあるんですよ。
いったい何を言っているのか自分でもよくわからないが! そうとしか言えない。相当に捻った作りなのかそれとも曲率0のノン捻りに観る側が勝手にブロッケンギガントを見てしまっているのかは判然としないが、ともかくそんなような面白さがあったのでポンコツな破綻と見えて意外に整然と破綻した(?)美級ていう感じでしたね。美級の読みはビィキュウです。
で、『ビハインド・ザ・マスク』とか『ありふれた事件』とかっていう殺人鬼に疑似密着したモキュメンタリー映画ってあるじゃないすか。『キリング・ガンサー』その形式。
打倒ガンサーに燃える殺し屋の主人公が自分を売り込むためにガンサー殺害計画の一部始終を撮らせているという体。撮ってる夫婦監督は金がないから仕事が選べない。
この主人公の人はいつなんどきでもスーツスタイルを崩さない気取り屋でパッと見クリストファー・ノーランのそっくりさんみたいな感じなのですが、演じるタラン・キラムというコメディアンの人は監督(と製作と脚本)も兼ねているらしいのでわりとパロディのつもりだったのかもしれないと思えば俄然おもしろく観れる。
完璧主義のこの人はさながら『インセプション』な対ガンサーのスーパースペシャルプロチームを結成するがどいつもこいつもバカだし使えないし全然プロじゃない。
爆破のプロとして招集された釣り人のデブはメインウェポンが手榴弾、凄腕のスナイパー枠で親子参戦した砂漠のなんとかみたいな二つ名を持ってそうな押井守的美女スナイパーは狙撃の機会がない、毒物のスペシャリストとされるそれっぽい風貌のアジア系の人はガンサー襲撃時には毒瓶を構えて突撃するが構えてもしょうがないだろ、毒。
片腕だけアイアンマンの人はなんのプロでもないので呼ばれた意味がわからないし、悪名高いロシアの凶悪殺し屋姉弟は平和にアメリカ観光を満喫するのだった。
スーパースペシャルプロチームが何の役にも立たず計画がグダグダになっていくその様相、ノーラン的プロ賛美映画のパロディっぽくないすか。無駄に爆発が長い、とか。
ノーランスタイルでガチガチに組み立てられた殺人計画兼撮影計画が結局はシュワの大味スタァパワーに屈してしまうという身も蓋もなさはそう見ると結構、意地の悪いメタなネタに二重化される。
エンドロールに鳴り響くのはシュワの殺人級ジャイアン歌唱。やりたい放題かよ。それを聴きながら俺は何を観ているんだと自問せざるを得ない厳しさはノーラン映画の快いエンドロール(曲:ハンス・ジマー)では絶対に味わえないが別に積極的に味わいたいものでもないだろうその厳しさ…というのをあえて叩きつけてくるんだ『キリング・ガンサー』は! それが現実というものだ! お前ら夢の世界に逃避してんじゃねぇよ! なにがダークナイトだよ! こっちはMr.フリーズだよ!
ノーラン×シュワのバットマン新作が見たくなった気がしたので筋肉に理解のあるザック・スナイダーは頑張って仲介してください(三人のうち誰かが死ぬ気もした)
【ママー!これ買ってー!】
もっと普通におもしろい殺し屋大集合コメディが見たかったら『スモーキン・エース』でも見ればいいんですよ。