『スターリンの葬送狂騒曲』+αを観に行った

《推定睡眠時間:0分》

『新しいモスクワ』という1938年制作の映画の上映会がアテネフランセでやっていて、なんでもスターリンのモスクワ改造計画的なやつを描いた都市喜劇だというから『スターリンの葬送狂騒曲』を観る前にちょうどいいじゃんと思って行ったらクソ満員で死んでしまった。

なんとか入れたはいいが最後列になってしまったので近眼人間なにも見えない。なにも見えないは大袈裟だとしても字幕が目を細めてもギリ見えないぐらいの見えなさ。
視力検査で右とか左とかの後に「だと思います…」「みたいに見えます…」を付けてしまう段階を通り越して更に頭に「…よくわかりませんがたぶん」を付け加えてしまう視覚の限界領域。
脳をフル回転させて見えない部分を他の観客の反応やなんとなくの流れから推察しながらの鑑賞となったので今年いちばん頑張った映画体験になったようにおもう。

でその後に『スターリンの葬送狂騒曲』を観に行って(これはちゃんと前の方の席が取れたので画面が見えた)、翌日に今度はフィルムセンターでやっていた『フルスタリョフ、車を!』っていうなんかよくわからんがすごいという評判だけ聞いていたロシア映画に足を運んだんですけれどもそしたらこれ『スターリンの葬送狂騒曲』と同じなのな、時代背景。

時代っていうかスターリン病死の前夜~死後の数日間だからもっとピンポイントで同じ背景だったからなんかピース揃った感じしましたよね。
スターリンの栄光と理想(『新しいモスクワ』)、スターリンの死に端を発する党幹部のドロ沼権力闘争(『スターリンの葬送狂騒曲』)、スターリン体制末期の混沌とした民衆世界(『フルスタリョフ、車を!』)って感じで。

いいですねこういう風に同じテーマで集中鑑賞してみるのは。後ろすぎて全然見えなかった『新しいモスクワ』も寝まくって全然見れなかった『フルスタリョフ、車を!』もこれらと違って画面を見ることはできたが歴史知識がペラすぎるので状況がよく見えなかった『スターリンの葬送狂騒曲』も三つ並べたらなんとなく見た感がでましたよ見た感が。

それにしてもスターリン関連の映画がこんなに短期間に集中するなんて。これは偶然とは思えないからスターリン崇拝の復活と日本の共産化を目論むコミンテルンの介入があったんだろう。
おそろしいコミンテルン。杉田水脈先生の言っておられることは正しかった。先生は映画をあまりご覧になられないようなので映画業界に食い込むコミンテルンの実態を知ってもらうためにも是非、何故二つだけではいけないのかなどとは言わずに上に挙げた三つをご覧になってもらいたい。

映画をたくさん観ると、視野が広がって見えなかったものも見えるようになりますから…(受け囃子の音)

それで『スターリンの葬送狂騒曲』ですけど最初は相変わらず趣味悪ぃなと思ったんですよフランス映画だし。なんかクラシックの生演奏流してるラジオ局がスターリンの気まぐれな一言で大混乱みたいな場面で幕を開けるんです映画。
露骨すぎない。スターリン引っ張り出してきてその愚かしさを嗤うことで直接言及せずとも自らのイデオロギーを正当化する自由主義陣営のネガキャン的自己宣伝っぷり露骨すぎない。

いや別にいいけど表現の自由だからそれは守られるべきだと思うけどこれと同じスタイルでじゃあ毛沢東の映画撮れるのかよたぶんできないだろそういうところがセコいんだよフランスの風刺映画はと頭の片隅にぶつぶつと不満をくすぶらせながら見ていたらですよところが!

ところがそういう狭隘な映画では全然なかったのであぁやっぱ映画は視野狭窄を治療するなと思いましたよね。アホみたいに死ぬスターリンとスターリン周りのえげつない連中の右往左往を嗤いながらでも僕たちだってやってることは大差ないじゃないですかぁとその嗤いが観ている側に跳ね返ってくる自重なき自嘲っぷり。いやこの場合はむしろ総括と言うべきかもしれないが(そういう意味では全編英語台詞であることはポジティブな意味を持つんじゃないだろうか)

おもしろかったところはあれですよスターリンの死体運んでたらミスって下敷きになっちゃったとかベタなんだよギャグ、えらいベタなローコンテクストギャグをスターリンと党幹部使ってバンバン繰り出してくるの。
これすごくない? スターリンでそれやるんだっていうのもすごいしそれをやるためにスターリン持ち出すっていうのもすごいと思ったよ。
スティーヴ・ブシェミのフルシチョフ(!)が変なにょろーっとした動きをしておもしろいとか。うるさいやつが殴られておもしろいとか。いやもっとなんかインテリ的な社会風刺っぽいネタとかじゃねぇんだそういうのなんだみたいな。この意外性。

でも本ネタはスターリン死後の権力闘争だからそういう一種祝祭的な楽しさというのが段々とやっぱ暗い話になってくる。スターリンが死んでからの三日間はえげつない権力闘争の馬鹿騒ぎがあって、それは決して明るい出来事ではないのだけれどもなんか前向きな空気っていうのがあって、それがでも三日間の葬儀が終わって権力闘争のゲームもひとまず決着すると重い現実に押しつぶされちゃって、権力の中枢に残ったやつらも勝者のように見えて結局はスターリン時代の後始末をしているだけだったんだなぁって感じになるわけです。

でその時に、これはすげぇ良いなと思ったのは、空気が読めなくて権力にあんま興味がなくてただスターリンの言ったことをオウムのように繰り返すだけだから他の党幹部連中には使えねぇ薄らバカ扱いされていたスターリンの右腕マレンコフが、たぶん党幹部の中では一番スターリン体制下の現実が見えていなかったスターリン信奉者のこの人が一番倫理的な振る舞いを見せるっていう皮肉がある。

その皮肉に思いのほか強いインパクトがあったのは権力闘争に興じるやつらの利己的な振る舞いは資本主義社会にお馴染みのものだからだろうなっていうところがあって、そこで今までスターリン&取り巻きに向けられていた嗤いが自分たちの方に跳ね返ってくるっていうわけで、まぁ一筋縄ではいかない、黒い苦い愉快なおもしろ映画だと思いましたね。

【ママー!これ買ってー!】


フルスタリョフ、車を! [DVD]

このフルスタリョフという人はスターリンの運転手かなにかで『スターリンの葬送狂騒曲』にもちょっとだけ出てきていた。

↓原作コミックらしい

スターリンの葬送狂騒曲 (ShoPro Books)

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