《推定睡眠時間:0分》
主人公の友人がNESの実機かなにかで『スーパーマリオブラザーズ』をやっている。スーパーマリオとはなんだろう。さやわかの『僕たちのゲーム史』には次のように書かれている。
『ゼビウス』が物語性と裏技を両立させたところでヒットしてから半年ちょっとで、ファミコンゲームとそのプレイヤーたちは、ゲームに隠された「裏側」や「謎」にどんどん惹かれていったわけですね。(…)だから『スーパーマリオ』はアクションゲームとしてではなく、世界を渡り歩いて謎を探求するゲームとして宣伝されたのでした。
『僕たちのゲーム史』星海社新書-p.39
映画を観る前に回転寿司を食べに行くと会計が777円。それから映画が始まって即、飛び込んできたのは7だった。テレビでやってる『第七天国』、ニュースが報じる大富豪セブンス氏の失踪。
偶然とは思えない。そこにはなにかがあるはずだ。つまらない世界に隠された「裏側」や「謎」が。
きっかけはセブンスだ。セブンス。セブンス、セブンス…都市伝説と妄想をアイデンティティの確立できていないナイーブな高校生たちの青春群像に絡めたPSゲーム『ペルソナ2 罪/罰』もセブンスから始まった。
主人公・周防達哉の通う高校が七姉妹学園、通称セブンス。主人公に恋心を寄せる金髪の同級生はリサ・シルバーマンといった。『アンダー・ザ・シルバーレイク』のマクガフィンたる失踪した女はライリー・キーオ、リサ・マリー・プレスリーの娘である…。
この街の地下にはなにかが埋まってる。この世界とは別のもうひとつの世界がある。たぶんマリオの地下ステージみたいに。
電波の導きのままにあてどなくLAを彷徨っていた主人公アンドリュー・ガーフィールドはやがて街の地下領域に辿り着く。
奇妙な符合だ。『ペルソナ2 罪』もそうだった。あの街、珠閒瑠市の地下にも埋まっているのだ、遠い昔に地球に飛来した宇宙人の巨大宇宙船・シバルバーが。
そこはなんでも願いが叶う場所で、搭乗すれば次なる存在へと進化することのできる人類の約束の地。ただし地球の崩壊と引き換えに。
なるほど、読めてきたぞ。『シルバーレイク』には目下のところ売り出し中のキッチュなポップグループ「イエスとドラキュラの花嫁たち」が登場するが、ガーフィールドはやがてこう確信するようになる。彼らの歌には暗号化されたメッセージが込められている。ポップカルチャーに暗号化されたメッセージで我々は操作されている!
リサ・シルバーマンはアイドルグループ「MUSES」に加入することになった。そのデビューソングの歌詞は極めて難解である。
空に瞬く昴の星に
止まった刻は動き出す
享楽の舞
影達の宴
異国の詠
贖罪の迎え火は天を照らし
獅子の咆哮はあまねく響く
冥府に輝くは五なる髑髏
天上に輝くは聖なる十字架
天に昇りて星が動きを止める時
マイアの乙女の鼓動も止まる
後に残るは地上の楽園
そして刻は繰り返す
アンドリュー・ガーフィールドなら飛びつきそうな暗合詞。これこそは永遠への入り口、人類をシバルバーへと導くマイヤの託宣であった。
「MUSES」はマイヤの託宣の成就を目論む秘密結社「仮面党」が大衆操作の目的でデビューさせたハリボテだったのである。「イエスとドラキュラの花嫁たち」がそうであったように。
どうしてそんなことを。夢がなければ人間が存在する意味はないからだ。夢がない人間はどうなる。影人間になって誰からも見えなくなってしまう。
夢を見よ、夢を見よ、もっと夢を…その夢はやがて人類進化の妄想となってハルマゲドンを引き起こすのであったというのが『ペルソナ2 罪』ですがこれはあまりにも『アンダー・ザ・シルバーレイク』と似た話ではないだろうかと妄想が接続されたところでさて、俺は今なにを書いているのでしょうか…。
意味のない関係妄想、想像の無秩序な連関。こんなものはいくらでもこじつけられるのであるが俺の知識だと『ペルソナ2』になるんである。
手持ちの知識で世界の全てを把握できると思い込む尊大な未熟さに関する寓話。ゲーム化されていく映画のセカイ系。とおいとおい昔、東浩紀はこう言った。
現代の物語的想像力は、いくども繰り返しているように、キャラクターのデータベースの隆盛とコミュニケーション志向メディアの台頭という二つの条件の変化のため、メタ物語的な想像力に広範に侵食されつつある。ひらたく言えば、そこでは制作者も消費者も、ひとつの物語を前にして、つねにほかの結末、ほかの展開、ほかのキャラクターの生を想像してしまうし、実際にそのような多様性は、メディアミックスや二次創作として具体的に作品を取り巻いている。
『ゲーム的リアリズムの誕生』講談社現代新書-p.236
ここで言及されているのは主にエロゲとラノベで映画は度外視されているが、そういえばどことなくエロゲ的な趣もある『アンダー・ザ・シルバーレイク』であった。
行く先々で謎を解いたり会話の正解選択肢を選んだりしてそのご褒美にセックスしまくるアンドリュー・ガーフィールド。
暗号詞が囁くのは核シェルターへの道、エンコーダーの存在。あたかも「ヘルタースケルター」の歌詞からハルマゲドンを読み取ったチャールズ・マンソンがシャロン・テートの惨殺に向かったように、アンドリュー・ガーフィールドはロックのエンコーダーを殺す。
そしてアンドリュー・ガーフィールドを無数にある中のひとつの真実に導いたビルボードはハンバーガー屋の広告に塗り替えられる。
スロッビング・グリッスルの、というよりはチャールズ・マンソンをパフォーマンスに取り入れたサイキックTVのジェネシス・P・オリッジがカルト教祖に扮してポップソングのサブリミナルメッセージを糾弾する『デコーダー』では、ポップソングを垂れ流すハンバーガー屋の店内テープを主人公が自作のノイズ・コンクレートに差し替えると、真実を知った大衆が暴動を起こすのだった。
アンドリュー・ガーフィールドの珍道中はどんな風にも見ることができるし、どんなものにも結びつけることができる。
虚しい。こんなヨタ話を書いていてそれなりに楽しくはあるがそれ以上に虚しい。大量に投入された都市伝説もポップカルチャーも虚しいばかりの世界を照射するための道具でしかないのであって、空虚だからそれは多義的で、インタラクティブで、共感力に富んで、カルト的に解釈も支持もされるのだ。
インチキ占い師がどうとでも取れる占いを読むのと同じようにして。マクルーハンがクールなメディアと呼んだもの。
基本的にはバカ映画とおもう。謎の暗号NPMを解読する下りは爆笑必至(でも映画館はしんと静まりかえっていた)。セックスとパーティしかやることがない空虚な世界の妄想大冒険は一笑に付してそれで終わり。
この主人公も監督も妄想とか都市伝説なんて別に本気で信じてるわけじゃないし、さして興味があるわけでもない。現実逃避の手段でしかないと自覚しているからこれは冷徹なバカ映画なんである。
ビートたけしの金言を換言すれば、こんなえーがにまじになっちゃってどうするの、です。
※後から少し書き足しました。
【ママー!これ買ってー!】
この表紙と同じポーズを取ったプレイボーイの表紙裸女をアンドリュー・ガーフィールドはオナネタにしていましたがストーリーもなんとなく同じです。
ディックの分身なジャンキーがエリック・ランプトン(誤植ではない)の監督した映画見に行ったらそこに隠された暗号を読み取っちゃってその導きで変な連中に…みたいな。
でもディックの妄想はアンドリュー・ガーフィールドみたいな気晴らしのにわか妄想じゃなくて本気の妄想ですからもう、全然強度が違うんだよ妄想と笑いの。
↓その他のヤツ
※マルホの最重要キャラだった人がシルバーレイクにもなんとなく同じような役柄で出てました。