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俺読んだことないんですよ、『ライ麦畑でつかまえて』。内容はもうガッツリ『ライ麦畑でつかまえて』を踏まえた感じの青春ロードムービー、少しの説明もないのでポピュラー過ぎて説明する意味がわからないぐらいなものなんでしょうが、それなりに楽しめたとはいえこれはモヤる。
モヤるのでウィキペディアを開いてみるとオッという記述に出会う。『ライ麦畑でつかまえて』の二次創作的勝手に続編が2009年に出版予定だったが、サリンジャーは出版差し止めを求めて提訴、これが通ったんでアメリカ国内ではこの本は出版できなかったらしい(今は普通に買えるっぽい)
その小説のタイトルが『60年後:ライ麦畑をやってきて(60 Years Later:Coming Through the Rye)』。内容、ライ麦世代のシニアが旅に出て現在のサリンジャーに出会う(らしい)。
『ライ麦畑で出会ったら』、原題『Coming Through the Rye』。内容、ライ麦に感化された居場所ない系の学生がライ麦を戯曲化、上演許可を取るべく田舎で隠遁生活を送っているサリンジャーに会いに行く。
そうか。そこも織り込まれているのか。ハイコンテクストだ。そのうえこのシナリオ、監督ジェームズ・サドウィズの実体験に基づいてるんだとか。
深い。レイヤーが深いぞこれは。二次創作的続編をパスティーシュ(?)的に取り入れた半自伝映画って。おおまかな映画の背景を知ってなぁるほどと膝を打ったが映画との距離はますます遠くなるなアウトオブライ麦人間としては。サリンジャーもそういうつまらない人間にはライ麦に近づいて欲しくないだろうからウィンウィン感もありますが…。
距離は遠いが空気は香る。ニューシネマの空気。音楽とかシンプルにアコギでフォーク。とてもニューシネマ。『いちご白書』みたいな感じ。『ファイブ・イージー・ピーセス』とか。
しまった俺ニューシネマもそんなに得意じゃなかったよ…遠いな。主人公とサリンジャーの距離も遠かったが俺と映画の距離も遠かった。
底辺学園生活を送る主人公が希望を託すサリンジャーは実際会ってみると凡庸でつまらない男。
ニューシネマだったらその挫折体験で自己憐憫的に映画が終わるがそれぐらいの挫折でなかなか実人生は終わってくれない。
だからリアルサリンジャーの凡庸に触れて大ガッカリな主人公の失意もふわっといつの間にかどっかに飛んでいってしまう。
その作品にいかに価値があろうともサリンジャー自身は凡庸な人間だったし主人公もまたそこらへんに腐るほど転がってる熱しやすく冷めやすい普通の若造だった。
なんてつまらない人生。でもつまらないまま続いてしまうから仕方がないんだよ人生。それも案外悪くないんじゃないのっていう、なんかそういうつまらない、つまらないけど滋味のある映画だったのでめちゃくちゃ距離は遠いが嫌いな感じではなかった(でもおもしろくはなかった)
【ママー!これ買ってー!】
謎のベールに包まれたカリスマ作家に会いに行く話といえばディックの『高い城の男』。風采の上がらない古道具屋がたまたま金持ち夫婦の家に招かれてその妻との不倫を夢想する冒頭が迫真のみみっちさで最高。
↓例のヤツ