《推定ながら見時間:15分》
この前アメリカン青春コメディ映画の『ステータス・アップデート』を見て主人公に魔法のアプリ入りスマホを授ける謎のスマホ店員をビッグウェーブさんことBUTCHさんだ! ビッグウェーブさんことBUTCHさんだ! と一人で騒いでいたんですが、この人じつはアメリカの超有名インスタグラマー、意識高い風に言ったらインフルエンサー、ダサいが現実に即した形に言い直せばネットタレント、若干の揶揄を込めて言えばネットセレブ、らしい。
BUTCHさんも2ちゃんのコピペなんかでネットミーム化して有名になった人だから俺の妄言も当たらずとも遠からずだったなと自画自賛するが、ただ違うのはBUTCHさんは有名になってからもタレントのお仕事が全然入ってこなかったが、この超有名インスタグラマーで『アメリカン・ミーム』のメインキャストの一人Josh Ostrovsky、インスタ名FatJewはバンバン仕事が来てめちゃくちゃ儲かってるということなのだった。
内容。若者を中心に盛り上がりまくっているアメリカのネットセレブ文化の概観。インスタ、ツイッター、VineなんかのSNSから生まれた新世代セレブとはいったいなんぞや、というのをFatJewほか何人かの数人のネットセレブの取材を通して描き出す。
映画が始まると最初に顔を出すのはパリス・ヒルトン。あれネットセレブの映画じゃないのって思うのですが、なんでもパリス・ヒルトンはネット人気が凄まじいらしく、この映画の主張するところではパリス・ヒルトンの身の振り方というのがFatJewらアメリカン・ネットセレブのロールモデルになっているらしい。
のっけからただならぬ気配がする。予期せぬ不穏ムードに頭が。パリスに続いて出てくるネットセレブ、夢は女優だがなかなか芽が出ず遊びで色んな役を演じる寸劇をVineに投稿したらバズりまくっていつの間にかそっちが本業になっちゃった人、ディズニーで仕事をしたくてアートスクールに通っていたが途中で嫌になっちゃって乱痴気パーティ開いておっぱい丸出しの女たちに酒かなんかぶっかける画像をインスタに上げてたらパリピに受けて超人気になっちゃった人、まだ赤ん坊の息子のおもしろ画像をインスタに上げたら(基本的にどの人もインスタ勢っぽい)やっぱり人気に火がついて毎日毎日無理におもしろ赤ん坊画像を作るようになっちゃった人、など。
書いているだけでどんどん表情が暗くなってくる。それに比べたらユーモラスなテメェの裸画像でバズったFatJewは聖人みたいなものだ、お前はヒカキンか、と思っていたらFatJew、ネタのパクツイならぬパクスタ疑惑が度々浮上しているらしい。
そのことは映画の中で本人も認めていたが、言い分がすごい。曰く、先行世代とネット世代では著作権の考え方が違う。
まぁ二次創作とかMADとか自由なパロディはネットカルチャーのコアでしょうが、それにしてももう少しこう、配慮があってもっていうか、ネタ生産者への敬意があってもっていうか…なんなんだお前ら! いい歳こいてなんでどいつもこいつもそんなガキみたいな振る舞いをしてやがるんだ!
思わず叫び出したくなってしまうがつまりそれでパリス・ヒルトン、という偶像にスポットが当たる。
奔放で健気でアホで率直でいつも空回りしていて傷つきやすいのに立ち直りが死ぬほど早くて鈍感で行動力があってでも自分一人では何もできなくて気さくでエロくてつまらなくてそして金がある。
ネット世代の人が求めるセレブ像、ヒーローまたはヒロイン像というのはパリスみたいな傷ついた子どものまま大人になって、でそのまま自然体で人気者かつ金持ちになった人なんだ、というわけです。
撮り方もあるだろうけれども確かにやっぱパリスは品も芸も無いフォロワー的ネットセレブどもとは格が全然違いましたよ。
望んでもいないのに四六時中パパラッチに追いかけ回されてプライベートなんてあったもんじゃない、全方位からバカだアホだとネタにされて金はあるが孤立無援、ボーイフレンドにはハメ撮りビデオまで売られてまったく酷いもんであるとついさっきアホと書いておきながら急に手の平返し的に同情するが、タブロイドの聖女パリスはその逆境をむしろ積極的に利用してしたたかにセレブ人権侵害状況をサバイブしてんである。
ネットに常接されたガキどもがそこに自分たちの姿を投影して希望を見出すのもなんとなくわからんでもない。
あと『蝋人形の館』の撮影にパリスは結構本気で臨んでいたことが本人の口から分かってちょっと申し訳ない感じになりましたね…ごめん雑に消費したりしてみたいな…。
で、パリスにネットセレブの原型を求めながら、それを補助線に映画は愚昧愚昧&愚昧なネットセレブにアメリカンなセレブ文化の被害者としての側面を見出していく。
愚かなものと批判しながらテレビや大手ネットメディアはその愚かなものをネタにして客を呼ぶし、こいつは影響力がありそうだと思ったら大手企業は容赦なく金で頬面叩いてネット広告塔に仕立て上げる。
その悪循環の行き着くところが現今のつまらないネットセレブなんだ、というわけでその指摘が正鵠を得たものかどうかはともかく、見た目からは想像しにくいが意外と骨太なドキュメンタリーで面白かったです。
こういう流れの背後には某ドナルド大統領を生んだ土壌も見え隠れするというもので結構、この映画の批評の射程は広いのだ。
ちなみにミームという言葉は劇中で特に意味が説明されなかったが、元々はリチャード・ドーキンスが主著『利己的な遺伝子』で生物的に受け継がれていく遺伝子(Gene)があるなら社会的に受け継がれていくその概念版みたいものあるかもしんないすねとかボソっと言ったのが最初で、その後スーザン・ブラックアモアなんかがざっくり展開した、人から人へとウィルスのように感染し模倣されていく行動様式や文化の単位を言うらしい。
※2018/12/14 思うところあって後から少し書き足してます。
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リンクを貼ったはいいが現時点ではリンク先は契約切れで死んでるため見れず、意外やソフト化もされていなかった。シネコンで公開された映画なのに。
別に見ても大して面白いものでもないと思いますが、『アメリカン・ミーム』的なネットカルチャーの空気を捉えた今日的な映画で、FatJewもちょっと出ていた(らしい)
※12/17追記:普通に配信もソフトもあったのでリンク差し替えました。