暴動バッチ来い映画『マイ・サンシャイン』感想文

《推定睡眠時間:0分》

超恥ずかしいんですけど俺これずっと『デトロイト』で描かれた暴動と題材同じなんだと思って見てました。
同じ実録暴動ネタっつっても『マイ・サンシャイン』の暴動は1992年のロサンゼルス暴動、『デトロイト』の暴動は1967年のデトロイト暴動だから地理的にも時代的にも全然違う…。

勉強をしないとこういうことになる。勉強しないとたかだか娯楽映画すらろくに見れないのだから勉強大事だなと恥じ入るばかりですがいやでもちょっとだけちょっとだけほんのちょっとだけ言わせてもらいたいのですが絵面似すぎ絶対似すぎ。
『デトロイト』と『マイ・サンシャイン』どっちも時代相や地域性の演出というのをあまりしない抽象度の高い作劇を取っていて、暴動の諸相がテレビニュースの引用と局所的な事件に巻き込まれた人々の主観から描かれるから暴動の全体像とか固有性があまり見えない(とくに『デトロイト』の方)

そうするとなんとなく印象近くなってくるわけですがそれに加えてですよ、どっちも準主役格の黒人の人、『デトロイト』は黒人警官で『マイ・サンシャイン』は童貞っぽいハル・ベリー一家の長男ティーンエイジャーですが、これもキャラが似てるんだよどっちも止めどなく広がる混乱の中でなんとか秩序を保とうと孤軍奮闘するんですけど結局は状況に飲まれていくみたいな立ち位置で…その戸惑いの表情もよく似てて…まぁ行き着くところはだいぶ違ったわけですが…。

暴動の経緯も白人警官の黒人に対する集団暴行&ヤング黒人の射殺事件とそれに対する住民たちの抗議→警察の取り締まり強化→抗議の過熱→取り締まりの過熱+白人警官無罪の判決=暴動発生ってほらこれどっちの暴動のこと書いてるのかわからないじゃないすか。っていうか去年か一昨年ぐらいにもこんな感じで暴動的デモになったじゃないすか。
いやもうそんな半世紀も同じようなこと繰り返されたらタイの政変みたいなもんでどれがどれだかわかんねって。俺の学のなさも大概ですけどアメリカの学ばなさも相当なもんですよ。これはアメリカも悪いよ。

ついでに言えば『デトロイト』も『マイ・サンシャイン』も女性監督で初公開2017年っていうね。シンクロ率がおかしいだろ。混ざるよこんなもん、混ざる。
もうここまで書いたらむしろ開き直ります。俺が思うに両作品とも特定の暴動を描こうとした映画じゃないですね。去年だか一昨年だかの白人警官による黒人暴行きっかけの暴動的デモを受けてアメリカ現代史に深く根を下ろす暴動一般を抽象的に描こうとしたものです。混ざってむしろ当たり前。

だからもう、いいよ『マイ・サンシャイン』、『デトロイト』の前編あるいは姉妹編で。まぁ俺がよくても周りはよくないとおもいますが…。

ただ『マイ・サンシャイン』とロサンゼルス暴動の場合は白人警官と黒人のストレートな対立の上にもうひとつ、黒人コミュニティと韓国人コミュティの軋轢っていう市民間対立のレイヤーが乗ってるんで、そこらへんデトロイト暴動および暴動を体感させるためにあえて俯瞰的な視点を排した(と思しき)『デトロイト』より事態は複雑で、お話もほぼ一軒家の中で起きた凄惨な事件の顛末のみに絞った『デトロイト』より遙かに散漫で煮え切らないところがあったようにおもう。

うまく言葉にしにくいのですが『デトロイト』が暴動の個別的情況を体感させるシミュレーション的な映画だとしたら、『マイ・サンシャイン』は暴動のイメージを体感させるもっとこう、情緒的なっていうか、詩的な映画っていうか。
その違いはちょっとおもしろいところで、『デトロイト』はリアルな暴動体験のためにその背景をかなり省略して抽象的なストーリーになってるんですが、『マイ・サンシャイン』は暴動に至る経緯なんかをその特殊性も込みで教科書的に概観しつつ、でも行き着くところにはどことなく寓話的な雰囲気が漂う。

『マイ・サンシャイン』の方がリアルに寄ったストーリー展開になってるはずなのに、そのことでリアリティからはむしろ離れていくっていう捻れがあって、これ監督がデニズ・ガムゼ・エルギュヴェンっていう『裸足の季節』で脚光を浴びたトルコの人だったんですが、『裸足の季節』で描かれていた宗教的に抑圧された少女たちの過酷な現実と、その現実の中からぬっと立ち上がる現実からの飛翔の瞬間というのが、『マイ・サンシャイン』にもあったような気が俺にはした。

『裸足の季節』との共通点。とにかくどっちも子どもがやかましい。それから女がたくましい。性の解放と自己決定が対抑圧の重要な争点になる。それに関連して、見逃してはいけないように思われるのがお祭り騒ぎの待望。
ここはたぶん『デトロイト』との最大の違いで、『デトロイト』が暴動を単に大衆の否定的な反応として取り締まる側の視点から捉えるのに対して(キャスリン・ビグローはミリオタの右翼なので)、『マイ・サンシャイン』は暴動のパニックに大衆視点から肯定的な面を見出そうとする。つまりは抑圧からの解放。これはでかい。

結果だけ取ればものすごく悲惨なお話の『マイ・サンシャイン』ですが見ている間は結構笑ってしまうところがあって、それも暴動の前はのどかな毎日で…みたいな場面の飾り付けとしての笑いではなくて、楽しそうに略奪してるブラックキッズに女性アナウンサーがニコニコしながらインタビューするニュース映像が流れる、とかそういう間の抜けたブラックな笑い。

映画のメイン登場人物は困ってる子どもをやたら拾ってきちゃうマザーのハル・ベリーとその息子ティーンエイジャーなわけですが、結構実は暴動で完全パニックになってんのは街じゃなくてこの二人の方で、いや放火とか略奪とか横行してんので街もパニックなんですが、パニックの中にもカーニバルの秩序というべきものがあって、ちょっと視点を変えてみると案外大したことでもない。

で、その視点を変えることが子どもへの愛情が高じて毒親化したハル・ベリー・マザーと、毒親の下で鬱憤と精液を溜め込んだ息子と、それから暴動をシリアスに捉えるすべての男ども、警官ぶっ殺すと息巻いて警察署襲撃計画を練るギャング黒人もそうだし、また反対になんとしても騒いでる黒人全員をムショにぶち込んでやろうと憎悪をたぎらす白人警官っていうのも映画に出てきたんですが、こういう人たちにはできない。

この構図も『裸足の季節』と通ずるところで、結局『マイ・サンシャイン』なんの話かって考えるに秩序の崩壊やコントロールの喪失を恐れるあまりまだ何も起ってないうちに攻撃的な抑圧の姿勢を取ってしまった人が、そのことで逆に抑圧される側の怒りを呼んで自ら恐れていた結果を招いてしまうっていうそういう皮肉な寓話だと思いましたね。

映画の冒頭に出てくるラターシャ・ハーリンズ射殺事件は万引きを恐れた韓国人商店主トウ・スンジャが客の黒人少女ラターシャ・ハーリンズを背後から拳銃で撃ち殺したものですが、時系列的にはそれ以前に起きたロドニー・キング事件(『マイ・サンシャイン』の原題は『KINGS』)が先に来ないとおかしい、でもそれをあえて先に配置するっていうのはラターシャ・ハーリンズ事件が象徴する恐怖に対する恐怖が現実の恐怖を生むっていう人間心理の不毛が映画の主題だからなんじゃないすか。

もう、全然知らなかったロサンゼルス暴動をマッハの速度で勉強したよ。そしたらなんとなくわからなかった映画の全貌が見えてきましたからたとえ付け焼き刃でも知らないものを知ろうとすることは大事、やはり。
『デトロイト』ともどもですが映画の中でも恐怖心から知るための一歩踏み出せなかった人がえらいことしでかしていたからな…そこらへんはネタバレになるので今更かという気もするが伏せておきますが!

ともかく『マイ・サンシャイン』そういう映画。序盤『万引き家族』で中盤から『デトロイト』、最後はちょっと『アモーレス・ペロス』とかかもしれない。『デトロイト』とは見た目ほんとよく似ていると思うが思想的には完全逆向き。
15歳不良少女の直球セックス描写とかキャスリン・ビグローならまず入れないだろう。『裸足の季節』も抑圧された少女のエロティシズムが全開で危うい感じだったが、15歳の年齢設定がたぶん児童ポルノ禁止法に触れると判断されたため当該シーンは性器のみならず首から下は全部モザイクでした。

そういうことをやってるから余計にエロく見えたりロリコンの情欲を煽るんだとそのような映画だったわけですから皮肉の上に皮肉が効いていてよかったです。

【ママー!これ買ってー!】


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『マイ・サンシャイン』『デトロイト』『キックス』『ムーンライト』の順番で現代ブラックムービー最前線オールナイトっていうのめっちゃ見たい。題して暴動から抱擁へオールナイト。最初二つでささくれ立った心も朝になって『ムーンライト』を見終わる頃にはすっかり浄化されていることだろう。

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さるこ
さるこ
2018年12月18日 12:25 PM

こんにちは。
ダニ・クレ(と巷では呼ぶらしい)目当てで見ました。が、これはムズカシイ。予定調和がないんです。背後で大変なことが起こってるけど、何だか個人的なんです。今なお咀嚼中です。
私は『フロリダプロジェクト』や!と思いましたが、あの優しげな黒人少年はナルホド、『ムーンライト』ですね。

さるこ
さるこ
Reply to  さるこ
2018年12月18日 12:27 PM

最後にチビが、あんよを差し出すシーンが、好きです。