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ママブログ界ではそれなりに名の知れたママビデオブロガーがえらい目に遭う話なのである意味『来る』と同傾向の映画ですがこっちに来るのはバケモノじゃなくてブレイク・ライヴリーです。ブレイク・ライヴリーが来る! 字面だけで絶対に無傷では帰れない感じである。
ステファニー(アナ・ケンドリック)は絵に描いたような理想ママっぷりが逆に病的に映ってしまうシングルマザーのママビデオブロガー。
毎日毎日ママライフハック満載のビデオブログを配信しつつ親参加型の学校行事には欠かさず参加、一人一役までの親お手伝い(教室の飾り付けをするとか)を嬉々として何役もこなそうとしてそういうの困ります的に教師にちょっと引かれながら怒られたりするするぐらいだから本気である。
ママが趣味。ママが天職。いやむしろママこそが人生。楽しそうでなによりですがこういうのが子供が大きくなってくると毒親化するんだろうなぁという気にさせられるのでまだ8歳くらいの息子ステファニーを見ながら早くも心臓が変な方向に顫動を開始するのであった。ブレイク・ライヴリーも恐いがアナ・ケンドリックも怖い。
さてそんなステファニーの可哀想な息子くんの通う学校には絶対に学校行事には姿を見せない都会派ママがいる。
この都会派ママ・エミリーは大手ファッションブランドの広報部長。ファッションも身のこなしも邸宅もニューヨーカー的に洗練されていて下半身はドライかつパリピに奔放、ファッションセンターしまむら的なところで買った10足10ドルのワンちゃん靴下を履いてるようなステファニーとはまるで対照的。
どうやってもその世界交わらんだろうと思いきや、キッズの世界に境界はない。いつの間にか息子同士が仲良くなっていた縁でステファニーとエミリーはママ友活動を開始、かくして地獄のママ・ロードへの道は開かれてしまうのであった。
ちなみにママ映画であるが以後ママたちの秘密の探り合いとか化かし合いとか殺人etcにシナリオの力点が移っていくのでそのキッカケとなったキッズたちは物語が進むにつれて出てこなくなる。
ファッションブランドに身を置いて自分を飾り立てることに余念がない都会派ママもビデオブログで理想のママとしての自分を誇示するママも、結局なにか理想的なキャラクターを演じることの中毒になってしまっているだけでその目的の方はなおざりという本末転倒があるわけで、その意味で鏡像関係にあるわけだ。
ドロドロ黒々の鏡像鏡割り合戦のとばっちりでメンタルショック受けまくりなキッズたちわりと不憫であった。そのへんの事情はガン無視するので結構、鬼畜感のあるコメディである。
それにしても役者がいいっすよねぇ。監督がウーマンパワー版『ゴーストバスターズ』のポール・フェイグですから役者の芝居で映画を転がしていく。
単体でもおもしろいアナケンの躁的な危うさとライヴリーの元ヤン的な危険のかほりの化学反応と相互浸透。ライブリーのエミリーに食われていたアナケンのステファニーが逆にエミリーを食っていく関係性の変化はまるでプチ『三人の女』、コメディの皮を纏っているが結構辛辣で見応えあった。
ママ友ってたいへんですね。そこらへんママノワールと呼ばれる所以だ(呼ばれてないが)
あとエミリーの夫役が『クレイジー・リッチ!』でシンガポールのスーパー金持ち御曹司だったヘンリー・ゴールディング。
『クレイジー・リッチ!』では王子様ポジションなのであんまり演技的な面白味はなかったが、今回は妻に経済的に依存する作家くずれの大学講師という屈折キャラ。
頼りになるようなならないような曖昧な存在感がややもすれば「はい俺これ読めたー」的な展開先読みバカに付け入る隙を与えてしまう比較的オーソドックスな物語にミステリアスな陰影をつけていて良かったなぁ。
ママ二人に焦点を絞った映画なのでこの夫のキャラは深掘りしませんが、それが良いことか悪いことかはともかく母として自分がどんな人間を演じるべきか明確に理解しているママ二人に対して、ゴールディングは父として夫としてどうあるべきかわからない。
その暗中模索っぷりはなんとなくアメリカ男の混乱を反映している風で、『ゴーストバスターズ』がそうであったようにこれもライトな見てくれの下にはジェンダー闘争が伏流してんである。
ちなみにゴールディング、『クレイジー・リッチ!』では小島よしお寄りの東出昌大みたいな顔してましたが今度は東出昌大寄せの小島よしおっぽい感じでした。良い意味で。…良い意味で?
その場限りの笑いと役者のおもしろ芝居を優先するあまり全体として抑揚がなく展開はノワールなのだけれどもシットコム的な空気がある、というのはたぶんこの監督の作風。
外面だけのママ二人の物語なわけだからその平坦であけすけな演出は物語に即しているとも言えるが、でももうちょっと勿体つけてケレン味を利かせたほうがノワールとかミステリーとしてはおもしろかったのにと個人的にはおもう。
そういうつもりで作ってないのか。最後とかもうしっちゃかめっちゃかで手に汗を握るというより面倒臭いから全員死ねとか思ってしまったし、「実話に基づく」映画の後日談風エンドロールを見ればこれは昨今のアメリカ映画に対する皮肉だったりするんだろう。
虚飾にまみれて自己を失うアメリカ人種の愚かさを斜に構えて鼻で笑う黒笑映画と思えばなるほど感。
それで良かったのかまったくわからないラストも含めてなかなか居心地の悪い、嫌味ったらしくておもしろいえいがでした。
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ナチュラルに社会の闇に踏み込んでしまうアナケンがいちばん闇なんじゃないか説。ちなみにこれはアナケンが猫耳暗殺者になるやつです。
↓原作