映画感想『ノーザン・ソウル』『パペット大騒査線』

全然関係ねぇじゃねぇかと思わせておいて一点だけ共通するところのある映画2本なんですが俺からはなにも言わないので各自勝手に考えてみてください。わかっても賞品とかなにもないです。

『ノーザン・ソウル』

《推定睡眠時間:25分》

ノーザン・ソウルというのはてっきり音楽ジャンルかと思っていたが違うらしく、70年代イングランド北部のクラブムーブメントのことらしい。
なんか比較的出回ってないアメリカのソウルとかR&BのレコードをDJが発掘してきて夜通し流す、で客の方はなんつーんすかね超高速ステップ踏んで見栄えなんか気にしてられるかよみたいな体力の限界ダンスでライフゲージを全消費、通常の状態だと一夜どころか一時間も持たなそうなので覚醒剤ガシガシ入れる、スピードやってフロアのスピードに身を任せるっていう…そんなようなムーブメントらしい。

おもしろいっすねぇ、そんなのあったんすねぇ。でまたおもしろいのがDJがトリで流す秘蔵レコードというのがあって、これをカバーアップっつってアーティストとか曲名を隠すらしい。
そしたら客連中はあのすげぇ曲なんだっつって探す。70年代イングランド北部、情報なんか断片的にしか得られないからそういう遊びが成立する。遊びっても切実な遊びだよね。

こういうムーブメントに乗ってる連中は地方の労働者階級なわけですから、それを暴くことは単調でノーフューチャーな生活の中の貴重な楽しみでもあって、ステータスでもあって、自分がそこにいるっていうこととか自分はクズじゃないってことを確認する意味合いもあったんじゃないですか。
DJと客の役割分担みたいのがあんまりキッチリとしているわけじゃなくて、隠す/暴く行為を通してその主従関係がしばしば逆転したり、客の中からDJに引き抜かれるやつがいたりして…目分量で覚醒剤入れて死ぬほど踊るわけですから犯罪的で乱暴なムーブメントには違いない、でもそこにはこの糞みたいな環境の中でなんとか毎日を楽しく過ごそうぜみたいな上も下もない持たざる者の連帯感があるんですよね。それ、グっときたなぁ。

主人公の高校ドロップアウト組の不良、笑い顔が良い。目を見開いて顎外れそうなぐらいに口を開けてギャハハハって笑う。絵に描いたような不良笑いだよねぇ。腹筋バッキバキでダンスもキレッキレ。
不良なんだけれども昼はパン工場で真面目に働く。覚醒剤には躊躇がないが惚れた女にはめちゃくちゃ奥手で紳士的。健康優良不良少年だ。

その健康優良不良少年がひょんなことから売人と知り合って、共にアメリカに行くことを誓った親友との関係に亀裂が入ってきて、というのが映画のメインストーリー。『トレインスポッティング』のようでもあるしプレ『トレスポ』的なポジションのポール・W・S・アンダーソン初監督作(そしてジュード・ロウのデビュー作)『ショッピング』のようでもある。あの系譜の映画。

『ショッピング』には遊びで万引きを繰り返す底辺人ジュード・ロウが上空を無関心に通り過ぎていく飛行機を見てふと、傍らの恋人に飛行機に乗ったことがあるかと問いかけるシーンがあった。俺はないんだ、とジュード・ロウ。
飛行機に乗って海外に行くことは学歴も所得も家庭環境も貧乏な島国のガキどもにとってはめちゃくちゃ大きな意味を持つんだろうなと俺も金がなくて海外行ったことないからなんとなくセンチメンタルな気分になってしまう。『ノーザン・ソウル』にもやっぱあるんですよ、主人公が飛行機を眺めるシーンが。

あのガキどもが最新のレコードじゃなくてあえてちょい古めの米国産ソウルのレコードで踊りまくるのも、そのことで少しだけここではないどこかに近づけるように感じられたからなのかもしれないと思えば、なかなかヘビィに切ない。良い映画でしたね。

『パペット大騒査線 追憶の紫影(パープル・シャドー)』

《推定睡眠時間:0分》

ヘビィに切ない映画の後はパペットの精液(※シェービングクリーム)が大暴発してブワッシャアアアアアアアってなるクソバカ映画です。
アダルトショップのカウンター奥ではマニア向けの牛パペット搾乳AVが撮影中! 変態ウサギパペットはニンジン型のアナルスティックでお楽しみ! この作品で見事ラジー女優の栄誉にあずかったメリッサ・マッカーシーはショ糖で鼻腔を真っ白にしてラリラリのハイテンション! コカインじゃないですショ糖です! ショ糖です!!!

みたいな。そういうイメージばかりが先行しているのは確かにそういう映画だからなのですが、意外にもというかストーリーの方はしっかりと古典的なハードボイルド。パロディというのもちょっと違くて、描写の一つ一つはエロでバカなんですけど本質的には結構真面目な映画でしたね。
パペットはもちろんマイノリティのメタファー。メリッサ・マッカーシーは伝統的ジェンダーロールを否定するタフでダーティな女刑事。出てくる人間は男も女も汚い顔とだらしない自然体ボディを装備したやつばかり。ストレートにポリティカル・コレクトネスだったりするわけです。

いいっすね。こういう表面的に汚ねぇ映画を俺は品がある映画だって思いますよ。人間の無様さを隠そうとしない。人間の業を肯定する。アンダーヘアと精液まで含めて全部開けっぴろげだ。
まぁ人間ていうかパペットなんですけど…そういうのはいいんだよ! そういう話じゃねぇんだよ俺が言いたいのは!

元警官のくたびれたパペット私立探偵とメリッサ・マッカーシーがパペット連続殺人形事件を追う映画。
メリッサ・マッカーシー、飾らないババァっぷりがカッコ良かった。パペット私立探偵とメリッサ・マッカーシーの無言の友情は沁みたなぁ。かつての栄光に縋る元スターパペットが人間にサインを求められて鼻高々、なんて場面はちょっと泣けてしまう。

ちなみにラジーの栄冠に輝いたのは謎解きに空前絶後のラジー賞オマージュが込められていたからじゃないかと思っているが、そのへん言うとネタバレになるので超言いたいが口外不可。
いやぁ、とんでもない謎解きでしたね。たぶん映画史上最低の謎解き。かつ、パペット映画でしか成立しない凄まじき謎解きであった。パペット操演の職人たちも誇らしいだろう。たぶん。

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なんとなくそれぞれの映画と近い感じのやつ。

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あああ
あああ
2019年3月13日 11:49 PM

こんばんは。先日コメントした者です。
ノーザンソウル、ご覧になったんですね。感想面白く読みました。
私があの作品観た時にモヤモヤしたのは主に脚本の部分で、登場人物それぞれの立ち位置とかが不明瞭なままストーリーが進んでいった感じがしたので誰にも感情移入ができなかったんですよね。
でもそれはシーンごとの意味を私がちゃんと汲み取れてなかった可能性もあるし、正直誰が誰だか途中から見分けがつかなくなってたのもあるし、あまりちゃんと観れてなかったのかもしれません。
そういえば観終わった後の「?」感はトレスポ観た時と似ているかもしれません。私にとってはそもそもこういう映画が合っていないってことかもしれないです。
作品中の人間関係もバンドものだったらもう少しわかりやすいのかな?とか思ってしまうあたりレイヴカルチャーとかムーブメントみたいなのも私は全然わかってないのだな、と思います。
「不遇な状況やシステムの抑圧の中でもがいている若者が夢中になれるものを見つけて、仲間ができて……」みたいな映画だと、『シングストリート』は結構面白かったんですけどね。
『ショッピング』もいずれ観てみます。また「?」となるかもしれませんが……。

あああ
あああ
Reply to  さわだ
2019年3月15日 8:04 AM

>>そのモヤっとしたところを晴らすためにこの人達は踊り狂っているようなところがあって
なるほど!少しピンときたかもしれません。
「クラブでの刹那的な乱痴気騒ぎ」みたいなことと、「DJ経験を積んでのし上がる」みたいなことがまぜこぜになっているように見えてしまったので「?」となったのかもしれないな、と気づきました。

>>あるいは端的に、二人の仲良し高校生が薬と金の匂いで忘れかけていた友情を取り戻すまでの話
これもそのとおりですね。なんというか全体的に、もっと素朴に観ていい映画なのかもしれないですね。
ミニシアター系の映画観るのが久しぶりで、映画館行くのも久しぶりだったんで、ついつい構えて観てしまってたかもしれません。
丁寧にありがとうございました。