《推定ながら見時間:全エピソード計15分》
たいへんな評判のネッフリオリジナルSFアニメ『ラブ、デス&ロボット』を見たので全話感想。
確かに噂に違わぬすごいアニメだったなぁ。1話完結、各エピソード5~17分程度の短編アニメオムニバスなので技術見本市的な趣もあり、SFの醍醐味爆発みたいなところもあり。
あとタイトルは『セックス、デス&ロボット』って感じです。やたらセックスをしている(もしくは脱ぐ)
『ソニーの切り札』
なんだか非常に王道感のあるサイバーピカレスク・アクションもの。獣変化ができるよう改造され地下闘技場で戦い続ける女は…みたいな話。
容赦ないゴア描写と露骨なエロ、そして実写ではできなさそうな肉体の変容。3DCGアニメなので絵柄的には全然違うが川尻善昭のセックス&バイオレンスな劇画アニメをなんとなく彷彿。
面白いかと言われれば俺はそんなでもなかったが、エロ・グロ・アートなんでもありのシリーズの一発目としてチュートリアル的な役目は果たしてように思う。
『ロボット・トリオ』
これ大好き。色々あって人類が一人残らずお陀仏となってしまった終末世界を3人のタイプの異なるロボットが歩いてる。
その3人、毒舌メトロノーム、へたれアンドロイド、無邪気なコミュニケーションロボットは文明の痕跡から在りし日の人々の姿を推測しながらあれこれと論評を加えていくのだった。
オフビートな風刺SFで気楽に笑って見られる息抜き編(2エピソード目ですが)。藤子F先生のSF短編に『征地球論』というのがあって、それがこんなような感じのゆるい風刺ものだったなぁ。
『目撃者』
シリーズを象徴するようなクリエイターやりたい放題エピソード。香港らしきどこかの貧乏マンモス団地で殺人事件勃発。殺人者がふと窓越しに向かいの棟に目をやると、そこには殺したはずの女がいた。
絵柄的には『スキャナー・ダークリー』をフォトリアルに寄せたような油彩画風3DCGで、その微妙な違和感の合間合間にサブリミナル的に挿入される落書き風カートゥーン画、アメコミ擬音が独特のドラッギーな世界を形成。
ひたすら走り続ける男と女を追うカメラはピントがブレブレ、露出は一定しないで常に明るくなったり暗くなったり。とにかくこの世界観が見せたいんだッ! の一点突破感がすごかった。
『スーツ』
クールでドラッギーなスタイリッシュアニメの次は一転して暖かみのある絵柄のロボットバトルアニメ。ディズニー風のキャラが夜の牧場で静かな時を過ごしている牧歌的な風景に突如として異変。正体不明の怪物がものすごい勢いで牛たちを殺しにかかっている!
しかしそんなことは想定内。この一帯のサイバー牧場は日夜襲い来る怪物を追い払うために戦闘ロボットを備えているのだった、というわけでディズニー風の牧場親父は今夜も戦闘ロボットに乗り込むのだが。
これはこれでクリエイターのやりたいことが明確なエピソード。牧場×ロボットバトルの取り合わせの妙がほぼ全てなのだが、そのロボットバトルは兵器としてのロボットを強調した重量級リアル路線、和ロボットアニメの影響もありそうなうねる多弾頭ミサイルとかシビれてしまう。
俺はガンダムでも『第08MS小隊』とかが好きなので普通におもしろかったです。ベタなキャラクターもちょうどそこにそのキャラが欲しかったんだ感を外さなくて良いんだなこれが。
『魂をむさぼる魔物』
遺跡調査で探検隊が見たものは! 的なやつ。魔物が出るのはタイトルでわかるので特に書かない。オチはまたアレです。ちょっとアレに頼りすぎじゃないすかね最近の映像作品作る人は…。
ラフな線で描かれたコミック的というかレトロなセルアニメ風というか、な絵に乗る怪物&スプラッター描写。いかにもアニメーターの感覚で作ったアニメだなぁみたいな感じがあった。
『ヨーグルトの世界征服』
星新一が書きそうなユーモアSF。超頭脳を持つヨーグルトがあっという間に人類を支配して人間による人間支配よりも遙かに人々を幸せにする、のだったが。
深皿に入れられた天才ヨーグルトが投入されたシリアルで文字を作って意思表示する『燃える昆虫軍団』みたいなバカシーンがお気に入り。フェルト的な質感のブリックキャラもかわいくて良い。
ちなみに先刻亡くなったB級職人脚本家ラリー・コーエンの監督代表作がアイスクリームが世界征服を目論む『ザ・スタッフ』。偶然にも追悼感が出てしまった。『老人と宇宙』のジョン・スコルジーが原作。
『わし座領域のかなた』
コールドスリープ中の宇宙船乗組員が覚醒。どうも航路を外れてしまったらしいと困っていると、そこにかつての恋人が現れた。
ストーリー的にはフィリップ・K・ディックがよく書くそれほど面白くない短編みたいな感じだったがフォトリアルな映像が単純にすごかった。
舞台は未来の宇宙船内なので背景とかはどうリアルに描かれてもリアルを感じにくいのですが、人物はハイパーリアル、セックスシーンは超生々しい。
というかいかにリアルなセックスを3DCGアニメで実現するか、ということに眼目が置かれたエピソードなのかもしれない。良いセックスでしたね。なんですか良いセックスって。ちな原作はSF作家のアレステア・レナルズ。
『グッド・ハンティング』
今をときめくケン・リュウ原作。いやぁおもしろかった。これに関してはあえてあらすじとか書きたくないので書かない。どうせ短編集とかでもう原作読んでる人も多いだろうし。
伝承とSFの融合、歴史のifで現在進行形の問題を語るアクチュアリティ。そこからの飛躍のカタルシス。巧みなストーリーテリングに小細工は無用ということでセルライクなスタイルを採用、ちょっと『ムーラン』みたいな絵柄は風情もあり、過ぎ去っていく時代のノスタルジーを感じさせてそれもまた良かった。ベストエピソード筆頭候補。
『ゴミ捨て場』
モダンホラーの大家、ジョー・ランズデール原作のダークホラ話(ホラーにあらず)。衛生局の職員に立ち退きを要求されたジャンクヤード住人の親父が語るジャンクヤードの秘密とは。
ゴミ山のゴミゴミ描写、ジジィのダーティトーク、肥満体の裸女、老チンポのブラブラがブラックユーモアなトラッシュ編。
『シェイプ・シフター』
そのまんまドッグ・ソルジャーなオオカミ人間兵士もの。タリバンと戦うべく中東派兵されたオオカミ人間兵士の悲劇。
『わし座領域のかなた』に続いてのフォトリアル路線には相変わらずすごいなぁと感心させられたものの、このストーリーで15分程度のランタイムは色々足りないよなぁと消化不良感あり。アクションシーンのカメラワークなんかも結構凡庸であんま盛り上がらず。
『救いの手』
船外活動中にデプリを食らって宇宙空間に放り出された宇宙飛行士。果たして彼女は無事船内に帰還することができるのだろうか。
これまたフォトリアルな3DCGものなので面白い無重力表現が見られるのかと思ったが、映像は宇宙空間がメインなのでそういう面白さは基本的にない。宇宙空間の怖さはよくわかった(わかったからといって面白くなるわけではない)。
タイトルはダジャレみたいなもの。そこからこう、もう一捻りあったらよかったのになぁ。たとえば救いの…。
『フィッシュ・ナイト』
こちらもジョー・ランズデールが原作の幻想譚で、砂漠で立ち往生した中年&若造セールスマンコンビが神秘的な太古の海を幻視する。
CGをコミック風に上塗りしたロトスコープ的な表現はおもしろいし荒野に煌めくネオンフィッシュの群れは綺麗。なによりこんな他愛のない話に技巧を凝らすのが素晴らしい。
ラブもデスもロボットもないが忘れ難い一本。あ、デスはあるか。
『ラッキー・サーティーン』
『わし座』『シェイプ』『救いの手』とリアルに作り込まれたCG人間を見てきているのでさすがにもう驚かないだろうと思ったら懲りずにまた驚いてしまった。
これはリアルだな…リアルっていうかこれは実写取り込みとかなのかもしれないが、実写とCGの境目がわからん。動きとかは嘘くさいんだけどなぁ、そこはモーションキャプチャーのCGアニメなのかなぁ。これはCG中島誠之助が必要ですね…。
お話は近未来戦争もので、特に捻りもなくさして面白くもなかったが、とにかく映像力が強いのでそこにやられる。茫漠とした黄土色の空はなんだか押井守の『アヴァロン』とか『ガルム・ウォーズ』みたい。
『ジーマ・ブルー』
個人的ベストエピソード。宇宙をテーマにした大規模壁画でアート業界の寵児となった画家。いつしか彼の作風に奇妙な変化が現れるようになる。壮大な壁画の中央にぽっかり空いた独特の四角いアクアブルー。画家の名を取りジーマ・ブルーと呼ばれたその青は、新作を発表するごとに拡大していく。
モディリアーニのようなマレーヴィチのような極端にデフォルメされた抽象的なキャラクターがインパクト大なアート・アニメで(まぁアートの話なので)、これも原作はアレステア・レナルズ。ぼくは読んだことがないのですがこの人はハードSF的なスペースオペラとか書く人のようで。
画家が描き続ける宇宙とはなんだったのか、宇宙を描く中で彼の中に芽生えた四角い青とはなんだったのか、短い中にもそこはかとなくスペオペ的感性というか、触れることのできない宇宙にそれでも触れようとする人間の儚さや崇高さが詩的に刻まれていて、珠玉。
『ブラインド・スポット』
なにこれ懐かしい! っていう感じのジュブナイル風SFアクション。なにと言われるとわからないのだが昔こういうやつ…2000年前後ぐらいにこういうアウトローな快活アニメ、よくテレビで見たような気がする。
大人向けを謳うこのシリーズの中では異色な素直に楽しいだけの童心帰りエピソード。このウォーキング・ディルドーめ! みたいな台詞を除けば。
『氷河時代』
いやこれはさすがに人間だろ! 一連のフォトリアル系エピソードと続けて見てるから脳が混乱してますけどこれはリアル人間が演じてますよ! このエピソードだけ見たら疑いを差し挟む余地すらないのにCGかもと思わせてしまうラブデスこわいよ…。
若い夫婦が古い冷蔵庫を家に導入。冷凍庫を開けてみるとそこにはスピードをめっっちゃ早めた『シムシティ』の世界が。原始時代から未来へそして…と移りゆく箱庭人間世界を夫婦は観察するのだった。
この箱庭世界がアニメで夫婦と夫婦の居るリビングは実写だと思うのですが間違ってないですよね…? 違う? 俺もうなにが現実かわからないですよ違うとしたら…。
『歴史改変』
もしヒトラーが違うタイミングで死んでいたら世の中はどう変わっていたか? の疑問から始まる歴史改変SFと見せかけておいてモンティ・パイソンみたいなナンセンス劇。
感想一言だけ。ヒトラーと5P中の娼婦の足が鍵十字を形作る糞みたいな不謹慎ギャグ、超最低で超最高でした。
『秘密戦争』
鬱蒼とした冠雪の森を進むロシア赤軍の秘密部隊は行く先々でズタボロの血まみれ農民死体に遭遇する。
村を襲って生き血をすすり、巣穴に戻ってえびす顔を浮かべているのは白軍が黒魔術で呼び出した地獄の怪物。
赤軍の秘密部隊は怪物討伐のために雪中行軍しているのだった。
シリーズの掉尾を飾るのは1エピソード目の『ソニーの切り札』と呼応するようなバイオレンスCGアニメ。
のわりには地味めなエピソードだったが気もするが、荒々しい筆致で隅々まで描き込まれたマニエリスム的な構図の映像がたいへん迫力。どの場面も一枚絵として完成されていて素晴らしいかったです。
2019/3/29 追記:多少書き直してます。
2019/5/31 再追記:コメントで教えてもらいましたがエピソード順はユーザー毎に変わるらしい。
【ママー!これ買ってー!】
コンセプトが似てそうなので貼ったものの観たことはない。
どうやら人によって開始エピソードが変わるのではないかと。
私は『氷河時代』から始まりました。
マイ・リストとか鑑賞記録で好みそうなものから始まってるのかも。
https://www.cinematoday.jp/news/N0107669
なんてニュースがありました。
マジっすか。そんなところでユーザーデータ活用してるなんて思いませんでした…。
しかしそれで腑に落ちました。netflix最新インタラクティブ対応作品の「You vs.Wild」のエピソード順がどうも俺が見た時と違っているようなユーザーレビューがネットにあったんですが、あれも基本は一話完結なので恐らくユーザーごとにエピソード順が変わるんでしょう。面白いことするなあ。
そうだったんですね…。俺は『グッド・ハンティング』が最初のエピソードだったんだけどSFもののアニメ好きなんでケン・リュウで釣れるだろと思われたんですかね。
見事に食いついちゃったけど。
こういうのはちょっと可能性感じて面白いですね。映画館では体験できない方向性で攻めてほしいもんです。
わぁ、本当にみんな違うんですねぇ。なんで俺『ソニーの切り札』だったんだろう。好きな要素とくになかったんですが。
わたしはNETFLIXではアニメアをあんまり見てないから実写作品『氷河時代』からだったのかな?
AIが自分をデータからどう見てるのかから逆に自分のことを知るという、このこと自体がメタSF(もはや現代劇か)になって、面白いですね。
面白いですよね。同じ作品を見たユーザー同士がエピソード順でひとつコミュニケーションを取れたりもして。ユーザー離脱率を下げるための施策にメタ的な遊びやコミュニケーションの余地があるっていうの、オンデマンドならではだなぁとか思いました。